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    「暖かい私たちの家」 (2013年2月10日 「朝鮮中央TV」)

    「朝鮮中央TV」が標記のようなタイトルの「テレビ連続劇」を2月10日と11日に放映した。制作された時期は特定できないが、「苦難の行軍の時期には」というような会話があるので、恐らく2000年以降の作品であろうが、金正恩時代の作品ではない。しかしこの「テレビ連続劇」もなかなか面白い。今、第2部のはじめまで見終わったところだが、これまでのストーリーは、平壌産院に勤務する独身の男性医師と同じ科に勤務する独身女性医師のラブストーリーである。ラブストーリーといっても、2人はお互いに好意を持っているにもかかわらず、なかなか自分の気持ちを正直に相手に伝えることができないので、周囲の人々があれこれと「くっつける」作戦を決行するという話である。

    ところどころに、思想的な表現を使う場面が出てくるが、恐らく、朝鮮人民の日常生活で使われるレベルではないかと思う。このドラマを見ていると、北朝鮮で使われる用語の本当の意味がだんだんと分かってくる。「欠陥」とか「批判」などの言葉が使われている場面や状況がとても興味深く、「欠陥」と「問題」、「批判」と「忠告」などの使い分けが漠然とではあるが分かったような気がする。

    また、つまらないことであるが、救急車のサイレンである。効果音として使用しているのであるが、日本の救急車と全く同じだ。いくつかの国で救急車のサイレンを聞いているが、このドラマの中で使われているほど日本の救急車に近いサイレンの音は聞いたことがない。もしかすると、北朝鮮で使われている救急車は、制裁前に総連がサイレン付きの中古の救急車を北朝鮮に持ち込んだものなのかもしれない。そうでなければ、この効果音を発生するための装置が日本製なのかもしれない。

    自由に行き来をし、人々と接することができない国なので、こうした小さな発見を積み重ねていくことが重要であるような気がする。

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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-02-10-27.flv

    「<インタビュー>第3次地下核実験成功のニュースを聞いた各界各層の人民の反応」 (2012年2月12日 「朝鮮中央TV」)

    日本のマスコミでも流されている核実験後に「朝鮮中央TV」で流されたインタビュー番組である。ここでは、朝鮮人民の言っていることよりも、背景に注目する。朝鮮人民の言っていることで一つだけ指摘しておくとすれば、インタビューされた人の多くが「安保理がああだこうだ言っても」と言っているが、その中で「어쩌고저쩌고(ああだこうだと)」という表現を使っている。何人かは別の言い回しをしているが、「安保理がああだこうだ言っても」という表現は、今回のインタビューのために使うようにいわれたのか、そうでなければ「政治教養」の一環として学んだのであろう。「労働新聞」サイトで「어쩌고저쩌고」というキーワード検索をしてみたが、直近の記事は2012年12月21日の「我々の衛星が続けて生まれることを願う」という記事であった。

    『労働新聞』、「우리의 위성들이 계속 태여나기를 바란다」
    http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-12-21-0053&chAction=D

    背景の話に移ると、まずタクシーである。過去記事に書いたことがあるが、平壌市内を走るタクシーの数が本当に増えたようだ。タクシーが自然と映り込んでいる。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13541

    2つめは、「天下一強国(天下第一強国)」というスローガンである。インタビュー番組の中でこのようなポスターがアップで映った。旧正月に合わせて作られたポスターなので、比較的最近作成されたものであろう。やはり、2月6日放送の「白頭山の虎が火の雷鳴を響かせる」前後から使われるようになった言葉なのであろうか。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13541

    3つめは、腕を組んで歩くカップルである。映像からは、それが恋人なのか夫婦なのか、はたまた親子なのかは確認することはできない。しかし、男女が腕を組んだ歩くということが、遊園地を現地指導したときの金正恩・李雪主腕組み写真以降に拡がっているのであれば、それはそれで興味深い現象である。

    写真1 白い服を着た人々
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13541

    写真2 左下隅の人々
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13541

    写真3 左下隅の人々
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13541

    写真4 右下の人民軍人
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13541

    実はこの動画、インタビューされて核実験成功を喜び、金正恩さんを称賛する人々よりも、背景を歩く人々に北朝鮮の現実が映し出されているのではないだろうか。

    「北はよく分からない国」 (2012年2月12日 「uriminzokkiri」)

    uriminzokkiriにこう題する動画がアップロードされていたので紹介しておく。

    「北はよく分からない国 カナダ・トロント望遠鏡」「カナダ・トロント望遠鏡」とはなんぞや
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    Source: uriminzokkiri, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=minsim&st=true&no=13480

    「今、世界は驚嘆と驚愕の前に立った」
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    Source: uriminzokkiri, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=minsim&st=true&no=13480

    「北が米国との全面対決を宣布したからである」
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    Source: uriminzokkiri, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=minsim&st=true&no=13480

    「大国も震え上がるそのとてつもない人口、領土、経済、技術、核強国と戦争も辞さぬといったということだ」
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    Source: uriminzokkiri, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=minsim&st=true&no=13480

    「いったい、米国と戦って勝つことができるのだろうか?」
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    Source: uriminzokkiri, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=minsim&st=true&no=13480

    「北はよく分からない国だ」
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    Source: uriminzokkiri, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=minsim&st=true&no=13480

    「しかし、確実なことは北に世界がまだ全てを知っていない何かがあるということだ」
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    Source: uriminzokkiri, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=minsim&st=true&no=13480

    「北は1980年代に常温で既に核融合実験に成功したと発表した国だ。常温核融合を通した発電は、今後100年間にその成功を確言できないと大国が認めるとてつもない技術である」
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    Source: uriminzokkiri, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=minsim&st=true&no=13480

    「北がそれに成功したとすれば」
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    Source: uriminzokkiri, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=minsim&st=true&no=13480

    「UFO型の特殊飛行体、強力なイオン兵器、強力なプラズマによる完璧なステルス飛行体、強力なレーザー兵器など」(「ステルス飛行体」がなぜかプロペラ機なのだが・・・、この兵器類、かつて日本で大事件を起こした宗教団体を名乗る一団の発想と似ている)
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    Source: uriminzokkiri, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=minsim&st=true&no=13480

    「非常に恐ろしい軍事力を保有することができる。体がブルブル震えるほどだ」
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    Source: uriminzokkiri, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=minsim&st=true&no=13480

    「今予告されている3次核実験も核融合実験成功発表と関連があれば、その衝撃は核爆弾ではない水素爆弾のようなとてつもない水位となるであろう」(この動画は、いつ制作されたのであろうか。制作担当者が実験実行日を知るよしもないのだが、今日アップロードされているにもかかわらず、「今予告されている」となっている。)
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    Source: uriminzokkiri, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=minsim&st=true&no=13480

    「また、もう一つは米国と米国と衝突する『最後の決戦』を前にした北には、超電磁気波弾頭を装着した特殊な戦略ミサイルがある」
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    Source: uriminzokkiri, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=minsim&st=true&no=13480

    「これは北が開発した(2003年頃)排水量1万トン級の原子力推進潜水艦に装着されれば、アメリカ大陸は一瞬で火の海となる。」(1万トン級原子力潜水艦とは・・・・)
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    Source: uriminzokkiri, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=minsim&st=true&no=13480

    「米国の無人潜水艦拿捕。遠隔操作される先端技術の集合体である米国の無人潜水艦を北が拿捕したことは、公然の秘密である。これを遠隔操作魚雷や機雷として使用すれば、米国が誇る核潜水艦であれ航空母艦であれ、叩けば割れるガラスに過ぎない。」
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    Source: uriminzokkiri, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=minsim&st=true&no=13480

    「この軍事力に北だけの特許品である精神力、団結力を合わせれば米国は必ず敗れるであろう」
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    Source: uriminzokkiri, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=minsim&st=true&no=13480

    「世の中の人々の米国偶像化慣行も崩れるであろう」
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    Source: uriminzokkiri, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=minsim&st=true&no=13480

    「地球村で暮らしながら、地球の中で皆が知ることができない力を育てた北」
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    Source: uriminzokkiri, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=minsim&st=true&no=13480

    「北は本当に分からない核融合技術成功のようにとてつもない特殊な国だ。」
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    Source: uriminzokkiri, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=minsim&st=true&no=13480

    「朝鮮民主主義人民共和国外務省スポークスマン談話」 (2013年2月12日 「朝鮮中央通信」)

    北朝鮮外務省が今回の核実験に関する談話を発表した。

    「談話」では「我々の第3次核実験は、米国の対朝鮮敵対行為に対処した断固たる自衛的措置である」とし、米国が北朝鮮のロケット発射に対する安保理決議採択をしたことなどを非難し、それが核実験の理由であるとしている。

    そして、「元来、我々には核実験を必ずしなければならない必要も計画もなかった」とし、その理由として「我々の核抑止力は、既に地球のどこであれ侵略の本拠地を精密打撃して一挙に消滅することができる信頼性ある能力を十分に備えている」からであるし、「偉大な大元帥様たちが生涯を掛けて作って下さった自衛的な核抑止力に依拠し、経済建設と人民生活向上に力を集中しようというのが我々の目標であった」としている。

    「昨年4月、米国が国連安保理事会を盗用して、我々の平和的衛星発射に対する『議長声明』というものをでっち上げた時にも我々は最大限の自制力を発揮した」が、今回、安保理決議を「履行に移すなど、敵対度数を高める以上、我々の忍耐力も限界に到達した」としている。

    今回の核実験について「我々の核実験は、いかなる国際法にも抵触しない正々堂々とした自衛的措置である」とし、その理由として米国の敵対視政策が加重されていること、NPTから北朝鮮は脱退し核抑止力を持つ道を選択したことなどを挙げている。

    そして、今回の核実験を「1次的な対応措置」と位置づけ、「米国が最後まで敵対的に出て情勢を複雑化させるならば、より強度の高い2次、3次対応として連続措置を執らざるを得ない」とさらなる核実験、ミサイル発射、あるいは対南攻撃を臭わせている。もし、この「2次、3次対応」がさらなる核実験を意味するのであれば、北朝鮮は既に相当量の高濃縮ウラニウム抽出しており、複数の核爆弾を製造できるということになる。

    北朝鮮の今回の核実験に対し「敵対勢力が騒ぎ立てる船舶検索、海上封鎖などを行えば、それは戦争行為として見なし、その本拠地に対する我々の無慈悲な報復打撃を誘発させるであろう」と実力行使を含む制裁強化に対する警告を発している。

    そして、米国に対し北朝鮮の衛星発射を認めるのか対北朝鮮敵対視政策を最後まで推し進めるのかという選択を迫っている。米国が敵対視政策を続けるのであれば、「世界は祖国統一の革命的大事変を当面し、どのように最後の勝利を達成するのかをはっきりと目にすることになるであろう」と対南攻撃をちらつかせながら威嚇している。

    『<録画報道>朝鮮中央通信社報道 - 第3次地下核実験を成功裏に進行 -」 (2013年2月12日 「朝鮮中央TV」)

    uriminzokkiriに核実験実施を伝える「朝鮮中央TV」の動画が掲載された。報道によると、核実験を実施したのは「国防科学部門」が「北部地下核実験場で成功裏に進行した」としている。核実験を実行した理由としては、「我が共和国の合法的衛星発射の権利を乱暴に侵害した米国の暴悪無道な敵対行為に対処し、国も安全と自主権を守護するための実際的な対応措置の一環」としている。

    そして、これまでの実験と比較し「爆発力が大きく、小型化・軽量化した原子爆弾を使用」したとし、核実験は「安全で高い水準で」実施したので「生態環境に如何なる影響も及ぼさなかった」としている。

    また、原子爆弾の特性や爆発力は設計通りであったとし、「多種化された我々の核抑止力の優秀な性能が物理的に誇示された」としている。アナウンスを私が正しく聞き取っているとすれば、「多種化された」といっている。であるとすると、やはり今回の核実験はウラニウム型の核爆弾によるものである可能性が非常に高くなる。

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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-02-12-15.flv

    <追記:2013年2月13日>
    「労働新聞」の記事で「多種化」と書かれていることを確認した。

    『労働新聞』、「조선중앙통신사 보도 제3차 지하핵시험을 성공적으로 진행」
    http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2013-02-12-0050

    北朝鮮、核実験実施 (2013年2月12日)

    「労働新聞」に掲載された記事を基に楽観的観測をしたばかりだが、どうやら外れてしまったようだ。地震について United States Geological Survey(USGS)のサイトの情報を見ると下記のとおりである。

    マグニチュードは4.9

    Event Time
    2013-02-12 02:57:51 UTC
    2013-02-12 11:57:51 UTC+09:00 at epicenter
    2013-02-12 11:57:51 UTC+09:00 system time

    現地時間で2013年2月12日11時57分51秒

    Location
    41.299°N 129.081°E depth=1.0km (0.6mi)

    発生地点は北緯41.299度、東経129.081度、深度1kmである。深度がここまで浅いので、核実験の可能性が非常に高い。

    USGS, "M4.9 - 24km ENE of Sungjibaegam, North Korea"
    http://earthquake.usgs.gov/earthquakes/eventpage/usc000f5t0#summary

    <追記>
    web版の「朝鮮中央通信」サイトには出ていないが、同通信が核実験実施を伝えたとのことなので、「実施か」の「か」は外した。

    『時事通信』、「核実験実施と発表=北朝鮮」
    http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130212-00000094-jij-kr

    さらに、韓国KBSの特別番組によると、今回の核実験については事前に米中ロには通告してあったとのことだが、その具体的日時までは知らせられていなかったという。韓国国防部もこの事実は知らされていたそうだが、日本はどうだったのであろうか。

    これとの関連で、China Daily.comは、「新華社」伝を引用しながら「新華社が北朝鮮外務省に電話で地震を感知したか問い合わせたところ、外務省当局者は自信については知らない」と答えたという。このニュースには13時18分のタイムスタンプがついているので、「地震」直後かなり早いタイミングの報道であることが分かる。しかし、13時前後に出されたこのニュースはずっとアクセスすることができなかった。恐らく、アクセスが集中していたのであろう。このニュースソースは、中国当局の発表によるものではなく、韓国のテレビ報道を引用しながらの報道である。それにしても、北朝鮮外務省当局者の「知らない」という答えは興味深い。中国外務省のサイト(英語版)を確認したところ、まだ北朝鮮の核実験に関するコメントは出ていない。事前通告との関連もあり、中国政府のステートメントを早く聞いてみたい。

    China Daily.com, "ROK believes DPRK conducts nuke test: local TV",
    http://africa.chinadaily.com.cn/world/2013-02/12/content_16220873.htm

    <追記2>
    「新華社通信」が、「中国は『断固として』今回の北朝鮮による核実験に反対する」とした中国外務省のステートメントを伝えた。中国語原文は見ていないが、英文では「"resolutely"」とダブルコーテーションマークを付けて反対の意思を強調している。

    China Daily.com,”China opposes DPRK's nuclear test, says statement",
    http://africa.chinadaily.com.cn/world/2013-02/12/content_16221173.htm

    <追記3:2013年2月13日>
    オバマ大統領のステートメントがホワイトハウスのHPで確認できた。大統領は北朝鮮の核実験を国連安保理決議などに対する「非常に挑発的なもの」であると非難した上で、「米国は北朝鮮の挑発に対して警戒を続け、同盟国と地域の防衛を確固としたものにする」と述べている。

    そして、今回の「誤った」核実験は北朝鮮を「強盛大国」と反対の方向に向かわせるものであるとし、このような行為は「国際社会に迅速で信頼できる行動」をさせることになり、「米国は同盟国と自国を防衛するために必要な措置を講」じ、「同盟国や関係国、6者会談の構成国、国連安保理、そして他の国連加盟国と共に確実な行動を行うための協調関係を強める」としている。

    the White House, "Statement by the President on North Korean announcement of nuclear test",
    http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2013/02/12/statement-president-north-korean-announcement-nuclear-test

    Statement from NSC Spokesman Tommy Vietor on North Korea’s Missile Launch

    2012年12月12日のロケット発射時には、大統領のステートメントは出されず、NSCのスポークスマンのステートメントという形を取っているので、今回の北朝鮮の核実験は、米国にとってより深刻な事態として認識されているのであろう。

    the White House、"Statement from NSC Spokesman Tommy Vietor on North Korea’s Missile Launch",
    http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2012/12/11/statement-nsc-spokesman-tommy-vietor-north-korea-s-missile-launch

    一方、日本時間昨夜の米国務省定例記者会見でも核実験に関する質疑が続いた。ヌーランド報道官は、ケリー国務長官が韓国の金外務部長官、中国の楊外相、日本の岸田外相の順序で電話を掛け、この問題について議論したとしている。ロシア外相については、外遊中(自動車で移動中)であり記者会見の段階では電話会談はできていなかったという。オバマ大統領は、立場上この問題に対処するために「同盟国」との協調をトップにあげているが、やはり現実的対応が必要となる国務長官レベルでは、この問題に対処するためには「韓国と中国」との協調が最重要であり、「同盟国」である日本とも一応相談するということになるのであろう。安倍政権は、強化された独自の対北朝鮮制裁を発動したが、米国の目にも制裁カードをほとんど出し切った日本には制裁の実効力があまりないと映っているのであろう。

    Department of State, "Daily Press Briefing",
    http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2013/02/204508.htm#NORTHKOREA

    『首相官邸』、「平成25年2月12日 内閣総理大臣声明」、
    http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/discource/20130212seimei.html

    核実験に関する北朝鮮からの通告については、韓国国防部スポークスマンの答弁にあったように「事前に伝えられてはいたが、時間は特定されていなかった」とヌーランドさんも述べている。しかし、それがどのような経路で伝えられたかについては「通常のチャンネルで」と明確な回答を避けている。米国務省は、ニューヨークの北朝鮮国連代表部とのチャンネルもあるのだが、このチャンネルがオープンしているのかどうかという点については、曖昧にしておいた方が賢明であるという判断であろう。北朝鮮の事前通告について、日本が情報を得られていたのかどうかについては、依然としてはっきりしていないようだ(要確認であるが)。

    実際に米国がどのような対応を取るのかについては、「安保理で検討した上で」としているが、「制裁」発動の選択肢の可能性もあるとしている。

    中国の対応については、「ケリー国務長官と楊外相はよい協力関係を構築しており、互いを非常に良く理解している」としているが、中国がどうするのかについて語るのは相応しくないので中国外務省に直接尋ねて欲しいとしている。中国の度重なる説得にもかかわらず北朝鮮が核実験を強行したことので中国の北朝鮮に対する影響力はそれほどないのではという問いに対しては、「中国は6者会談構成国の中で最も影響力のある国で、北朝鮮とも非常に深い経済協力関係にある」ので、米国務長官も中国との協調を最優先していると述べている。この発言からは、中国に対して「あなたは強い影響力があるのだから」逆をいえば「あなた以外に影響力を行使できないのだから」経済制裁を含むより強力な対応を求めているということが感じとられる。

    これに対して記者は2006年や2009年の核実験からもう何年も経っているのに中国はなぜ北朝鮮について甘い対応を行ってきたのかという質問が出されたが、ヌーランドさんは「それは中国政府に聞いてくれ」とした上で、「中国も含む我々は、何年もの間、北朝鮮に(孤立を選ばずに国際社会に一員となる道を選ぶよう)シグナルを発してきた」が北朝鮮はそれを聞き入れず「相次いで挑発を選択した」としたので、北朝鮮が「(我々のシグナルに)注目するよう、共に協調していく」とし、中国の積極的な関与を間接的に求めている。

    北朝鮮の核実験とイランの核開発の関連についてヌーランドさんは「憂慮している」とし、北朝鮮からの核技術がイランのみならずテロ集団などに拡散することに対して警戒感を示した。米国は既に北朝鮮に対して、核技術の拡散、特にテロ集団への拡散についてはイエローカードを提示している。しかし、これまでは北朝鮮から核技術を得たテロリストが「米国に核を持ち込んで」テロ行為を行うことに対する脅威のみであったが、北朝鮮のロケット技術が進歩していることから、「ミサイルに搭載された核が米国に飛来する」脅威も増大しつつあるという認識が「米国も防衛する」というオバマ演説の中でも見て取れる。

    北朝鮮に対する実効力のある制裁に関する質問に対しヌーランドさんは「国際金融へのアクセス制限が北朝鮮を締め上げるのに有効である」あることは分かっているが、「米国が求める北朝鮮を干すやり方への(協調が)そう簡単には得られない」と中国の金融制裁に対する消極的な姿勢を批判している。またどう報道官は、過去のBDAの北朝鮮資産凍結が制裁として有効であったことも認めており、今回の制裁には国際銀行間通信協会の取引システム(SWIFT System)から除外など、金融制裁を含めたい様子である。しかし、BDAの資金凍結、そしてその解除に際しては、中国の銀行の北朝鮮資産引受先などを巡り中国は相当に苦労しただけではなく、SWIFTシステムからの除外は、事実上北朝鮮との経済関係を断絶することを意味するので、中国の協力は得にくいであろう。

    ヌーランドさんが「米国はこの問題(北朝鮮の核実験)に対処するために全ての選択肢(the full suite of things)を視野に入れている」と述べたのに対し、記者が「suiteといったのかsweepといったのか」と質問すると、どう報道官は「suiteといったが、sweep(掃討)といった方がよかったかも」と応じている。冗談であろうが、uriminzokkiriにアップロードされた冗談のような(核融合兵器の)動画同様、こうしたメッセージには案外と本意が含まれていることがある。

    ところで、中国外務省のHP(英語版)にステートメントが掲載された。

    Ministry of Foreign Affairs of the PRC, "Statement of the Ministry of Foreign Affairs of the People's Republic of China",
    http://www.fmprc.gov.cn/eng/zxxx/t1013361.shtml

    それによると、中国は国際社会の中止要請を無視して行った北朝鮮の「固くこの行為(核実験)に反対する」としている。「新華社」伝では「固く」と訳した部分に上記のように「"resolutely"」と書かれていたが、外務省ステートメントでは「firmly」となっている。このあたりの外交用語の使い分けは難しくてよく分からないのだが、後で重要な点となって来るであろう。

    そして、「朝鮮半島の非核化、核拡散防止、東北アジアの平和と安定をもたらすことが中国の確固とした立場である」とし、北朝鮮に対し非核化と「さらなる情勢を悪化させるような行動」を控えるよう求める一方で、関係国に対しては「朝鮮半島と東北アジアの平和と安定を維持することが全ての当事者の共通利益となるので」、「全ての関係国は冷静に」、「6者会談での協議を通じてこの問題を解決する」よう求めている。

    「冷静に」という集約されているが、今後行われる安保理協議で中国がどこまで踏み込んだ対応を行うのかが一つの鍵になるが、2006年に北朝鮮が核実験を行ったときに使った「傍若無人」にもというような直接的な怒りを表す表現は避けているので、米国が求めるような厳しい対応は認めない可能性が高い。

    「米大統領一般教書演説」で北朝鮮の核問題は軍事・外交上の懸案事項のトップの項目としてあげられたが、内容的にはそれに先だち出された大統領ステートメント以上のものではなかった。

    the White House, "State of the Union 2013",
    http://www.whitehouse.gov/state-of-the-union-2013

    <追記4: 2013年2月14日>
    書き忘れていたが、韓国を輪番議長国とする国連安保理は「安保理諸決議(1718,1874,2013)に違反する北朝鮮の核実験を非難し、それが国際の平和と安全への明らかな脅威である」とし、安保理メンバーは「安保理決議2087に基づく『重大な行動』を取ることを前科一致で採択し」、「決議違反の重要性を鑑み、直ちに適切な対応措置の検討に入る」ことを「報道声明」で明らかにした。

    UNSC, "Security Council Press Statement on Nuclear Test Conducted by Democratic People’s Republic of Korea",
    http://www.un.org/News/Press/docs//2013/sc10912.doc.htm

    「朝鮮労働党中央委員会政治局会議で決定書『朝鮮民主主義人民共和国創建65周年と祖国解放戦勝勝利60周年の大祝典で迎えるにあたり』を採択」 (2013年2月12日 「労働新聞」)

    「労働新聞」に上記のような記事が掲載された。この記事の詳細については追って書くことにするが、最近の核実験騒ぎとの関連で注目される点は、同記事の総論部分で「今年の意味深い名節(複数)を盛大に慶祝することは、清らかな共和国の尊厳と自主権を名誉を持って守り抜いた偉大な戦勝の歴史を輝かせ、我が革命偉業の正当性を明確に示し、戦争に狂奔する米帝と追従勢力に甚大なる打撃を加えるもう一つの威力ある政治軍事力、精神道徳的勝利となるであろう」としている点である。「米帝と追従勢力に甚大なる打撃を加える」ことが、「党中央軍事委員会拡大会議」での金正恩さんの「結論」だとすると、核実験は中止したということになる。

    国内的な説明としては、そもそも核実験など計画はしていなかったのだし、これぞ「結論」であるということになるばかりか、決定書4の部分に書かれている「我が共和国を孤立圧殺しようとするあらゆる敵対勢力の策動を経済強国建設と人民生活向上の誇らしい勝利で断固として叩きつぶすことについて指摘」している。つまり、「結論」とは軍事的に「敵対勢力」に対抗することではなく、経済建設をすることで対抗する路線であるとも読み取れる。

    依然としてuriminzokkiriの「早合点」記事を見つけることはできていないが、この内容は「早合点」とも符合する。「時事通信」は聯合ニュースを引用しながら「北朝鮮が核実験の構えを見せていた豊渓里の核実験場から、人と装備が撤収したと伝えた」と伝えているが、これも核実験を決行するための撤収ではなく、取りやめたための撤収ではないだろうか。

    『時事通信』、「核実験場の人と装備撤収=実施間近か、偽装か―北朝鮮」
    http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130212-00000002-jij-kr

    こうした状況からすると、金正恩の特使が中国との交渉で中国の安保理決議2087への実効性担保について一定の譲歩をさせたことと、中国側からもそれと引き替えに経済支援を続ける条件として「人民生活の向上」をさせるための施策が提示された可能性がある。中国と北朝鮮の交渉の内幕については公表されることはないだろうが、米国がこれについてどのように評価するかである程度の判断はできる。米国は中国が核実験を中止させたことを評価するのか、それとも安保理決議の実効性担保で譲歩したことを非難するのか分からないが、そもそもことは北朝鮮が昨年12月にロケットを発射したことに端を発している訳なので、北朝鮮はロケットを発射した上で、中国が安保理決議に実効性を持たせず、さらに経済協力を取り付けたのであれば、北朝鮮の対中瀬戸際外交の勝利であるといわざるを得ない。さらに、米国からも「核実験を中止したよい子」と評価されるかもしれない。

    北朝鮮は核実験をやるなどとは公言していないので、核実験中止したとも公言しないであろう。「中止」の意志を示す方法は、上の「時事通信」記事にもある実験場から撤収する様子を「敵対勢力」のスパイ衛星に撮影させる方法しかない。もちろん、この撤収が実験決行のための撤収か中止のための撤収かは、もう少し様子を見ないと分からないが、もし後者であるとすると、そもそも全ての動きが核実験を臭わせる「演技」であったか、そうではなくても核実験を決行する際の「訓練」であった可能性もあり得る。そうであるとすると、「敵対勢力」のスパイ衛星を上手く利用した北朝鮮の方が上手ということになる。「敵対勢力」はそれ以外の方法でも情報収集は行っていただろうが、手の内をさらすことになるので「敵対勢力」がそれを絶対に明かすはずがない。

    『労働新聞』、「조선로동당 중앙위원회 정치국회의에서 결정서 《조선민주주의인민공화국창건 65돐과
    조국해방전쟁승리 60돐을 승리자의 대축전으로 맞이할데 대하여》를 채택」
    http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2013-02-12-0001

    核実験騒ぎとの関連についてはこのぐらいにし、「決定書」の内容を見ていくことにする。「決定書」では、決定事項を10項目に分けているので、項目別に見ていくことにする。

    1.「偉大な金日成同志と金正日同志を我が党と革命の永遠なる首領として高く頂くための高潔な偉業を一層深化させ完成していくことについて指摘した」
    (위대한 김 일 성동지와 김 정 일동지를 우리 당과 혁명의 영원한 수령으로 높이 우러러모시기 위한 성스러운 위업을 더욱 심화시켜 완성해나갈데 대하여 지적하였다)
    とした上で、「偉大な大元帥様たちの銅像を領導業績単位に丁重にお迎えすることについて明らかにした」(결정서는 위대한 대원수님들의 동상을 령도업적단위들에 정중히 모실데 대하여 밝혔다)と述べているので、1番目は単純に銅像建立事業を推進するということである。これにより、「白頭の血統」をさらに浸透させ金正恩さんの権力基盤を固め、「大元帥様たち」に対する彼の忠誠心を宣伝することが目的であろう。

    2.「偉大な祖国解放戦争勝利60周年と朝鮮民主主義人民共和国創建65周年を慶祝する政治行事を盛大にそして意義を持って組織・開催することについて指摘した」
    (위대한 조국해방전쟁승리 60돐과 조선민주주의인민공화국창건 65돐을 경축하는 정치행사들을 성대하고 의의있게 조직진행할데 대하여 지적하였다)
    とした上で、「大集団体操と芸術公演『アリラン』」などの「政治行事を開催」するといっているので、2012年で最後という説もあった「アリラン」が今年も行われることが明らかになった。

    3.「白頭山の絶世の偉人たちが達成された不滅の革命業績と百勝の伝統を末永く輝かせるための事業について指摘した」
    (백두산절세위인들께서 이룩하신 불멸의 혁명업적과 백승의 전통을 길이 빛내이기 위한 사업들에 대하여 지적하였다)
    とした上で、「金日成総合大学革命史跡館、祖国解放戦争史跡館、戦勝革命史跡館をはじめとした革命戦績地と革命史跡地、革命史跡館、革命博物館」を整備し、平壌をはじめとした全国各地に「革命烈士の墓地」を建設するとしている。この事業は基本的に上記1と同じ目的であろう。

    4.「我が共和国を孤立圧殺しようとするあらゆる敵対勢力の策動を経済強国建設と人民生活向上の誇らしい勝利で断固として叩きつぶすことについて指摘した」
    (우리 공화국을 고립압살하려는 온갖 적대세력들의 책동을 경제강국건설과 인민생활향상의 자랑찬 승리로 단호히 짓부셔버릴데 대하여 지적하였다)
    とした上で、「人民経済の先行部門、基礎工業部門をはじめとした全ての部門、全ての単位で生産を活性化し」、「人民生活と直結した農業と軽工業部門に電気や燃料、原料や資材、設備などを優先的に供給し、人民の食の問題を円満に解決して、質の良い人民消費品をさらに多く生産供給し住宅建設を力強く推し進める」としている。冒頭部分で書いたように、「敵対勢力」とは軍事力ではなく経済力で戦うとも読み取れる部分であるが、「農業と軽工業部門」に資源を優先的に投入していくという方針を明らかにしている。さらに興味深いのは、この「決定書」の中では軍事産業について一言も触れられていない点である。これまでは、少なくとも形式的には軍事産業と民需産業を並進するという形を取っていたが、この「決定書」はそうなっていない点が注目される。

    また、「経済事業で内閣責任制、内閣中心制の原則を徹底的に守る強い規律と秩序を打ち立て」るとしている点も注目される。金正恩さんが経済建設を内閣に押しつけたといういつもの批判も出ようが、肯定的に受け止めるのであれば、経済部門を「内閣」、つまり労働党に統合するという、これまで金正恩さんが推進してきた軍部の経済権益の労働党集中化事業を強化する「決定」であるとも読み取ることができる。しかし、「国家経済計画規律を厳格に遵守する」ともいっているので、市場経済化にはブレーキを掛けているという側面もある。

    5.「造成された厳重な情勢に対処し、祖国の安全と国の自主権を信念で守護するための強度の高い全面対決戦を展開し、共和国創建65周年と戦勝60周年を国防力強化の新たな成果として輝かせることについて指摘した」
    (조성된 엄중한 정세에 대처하여 조국의 안전과 나라의 자주권을 믿음직하게 수호하기 위한 강도높은 전면대결전을 벌리며 공화국창건 65돐과 전승 60돐을 국방력강화의 새로운 성과로 빛내일데 대하여 지적하였다)
    とした上で、「光明星系列の人工地球衛星と威力のある長距離ロケットなどを継続して発射することについて強調」しているとしている。この主張は安保理決議が採択された後などで見られたが、「国防力強化」はロケット発射によるという位置づけである、12月のロケット発射も成功したのだから、国防力も強化されたということを主張したいのであろう。それにしても、「長距離ロケット」という表現が実に巧妙で北朝鮮らしい。「ミサイル」という言葉は「労働新聞」でも安保理決議非難などの記事でしばしば使われるので、朝鮮人民も分かるはずであるが、それを敢えて「ロケット」と言い替えているところがおもしろい。

    また、「(朝鮮人民軍は)命令さえ下されれば、侵略の本拠地(複数)を一気に粉砕して昼強盗米帝と南朝鮮傀儡軍を徹底的に撃滅掃蕩することで、祖国統一の歴史的偉業を達成することについて言及した」という毎度繰り返される威勢の良い主張もしている。この他に「司法警察、人民保安機関、朝鮮人民内務軍」に対し「帝国主義反動どもと階級的敵どものあらゆる策動を断固として粉砕」することも求めている。

    6.「社会主義文明国建設に一層拍車をかけることについて指摘した」
    (사회주의문명국건설에 더욱 박차를 가할데 대하여 지적하였다)
    とした上で、「全般的12年制義務教育を実施するための準備を今年中に完了し、医学情報資料サービスネットワークと遠距離医療サービス体系を確立して、子供病院や口腔病院、リハビリセンターを建設しフンナム製薬工場現代化一段階工事を終えること」、「文化芸術作品を創作し、群衆文化芸術活動を活発に展開」すること、「各種の体育施設を建設し、全国に体育熱風を力強く巻き起こす」ことなどを具体的な事業としてあげている。教育、医療、体育に一層力を入れようという意思の表れであろう。

    7.「白頭山の絶世の偉人たちの生涯の念願である祖国統一を実現するための全民族的な愛国闘争を力強く展開することについて指摘した」
    (백두산절세위인들의 필생의 념원인 조국통일을 실현하기 위한 거족적인 애국투쟁을 힘있게 벌려나갈데 대하여 지적하였다)
    とした上で、「米帝と南朝鮮傀儡逆賊一味の反共和国策動と『制裁』騒動を断固として粉砕して、歴史的な6.15共同宣言と10.4宣言を徹底的に履行し祖国統一の新たな局面を開くための闘争に全ての朝鮮民族を奮い立たせるであろう」としている。注目すべき点は、5で「南朝鮮傀儡軍を徹底的に撃滅掃蕩する」と言っておきながら、こちらでは南北共同宣言の趣旨に基づき平和的に統一に向かうということを主張している点である。北朝鮮の硬軟両面戦術は常套手段であるが、5は李明博政権に7は朴槿恵政権に向けたメッセージなのかもしれない。

    8.「党及び勤労団体組織と政権機関の役割を高め、党関係者の思想観点と事業気風、仕事に対する姿勢から根本的な革新を巻き起こすことについて指摘した」
    (당 및 근로단체조직들과 정권기관들의 역할을 높이고 일군들의 사상관점과 사업기풍,일본새에서 근본적인 혁신을 일으킬데 대하여 지적하였다)
    とした上で、「第4回細胞秘書代表大会」での決議内容や「金正日愛国主義」を実践することを求めている。さらに、「金日成社会主義青年同盟をはじめとした勤労団体組織で12月12日宇宙征服賞争奪のための社会主義増産競争運動を力強く展開」するとしている。「12月12日宇宙征服賞争奪」という新たなスローガンが登場したようだ。

    この項目で特に興味深いのが、「全ての部門、全ての単位でモランボン楽団の革命的な創造期風と斬新で進取的な仕事に対する姿勢を学び、沈滞と足踏み、硬直と浪費を排撃し、全ての事業を大胆に革新していく」とモランボン楽団を引用しながら「斬新で進取的な」姿勢を求めていることである。さて、この「斬新で進取的」が何を指しているのかはよく分からないが、モランボン楽団が資本主義的な趣向を凝らした演奏をしていることを指摘しているのであれば、何らかの市場経済的な改革を意味するのかもしれない。もちろん、上の複数の項目でそれに対する警戒感も示しているので、判断は難しい。

    9.「各級の党組織と政治機関は、朝鮮労働党中央委員会政治局決定を貫徹するための組織政治事業を行い、その定型を正常に掌握・指導することにより、決定書に提示された課業を徹底して執行するようにすることについて指摘した」
    (각급 당조직들과 정치기관들은 조선로동당 중앙위원회 정치국 결정을 관철하기 위한 조직정치사업을 짜고들며 그 정형을 정상적으로 장악지도함으로써 결정서에 제시된 과업들이 철저히 집행되도록 할데 대하여 지적하였다)

    10.「最高人民会議常任委員会と内閣が朝鮮労働党中央委員会政治局の決定書に提示された課業を貫徹するための法的、行政実務的措置をとることについて強調した」
    (최고인민회의 상임위원회와 내각이 조선로동당 중앙위원회 정치국 결정서에 제시된 과업을 관철하기 위한 법적,행정실무적조치를 취할데 대하여 강조하였다)

    9と10は、この「決定書」の内容の執行について述べているが、これを基に法整備や行政組織の整備をすることを求めているので、この段階で「モランボン楽団」的な要素がどのように盛り込まれるのかに注目する必要がある。

    冒頭に書くべきだったのかもしれないが、この「決定書」の中でも「天下一強国(天下第一強国)」という言葉が使われている。過去記事にも書いたとおり、ロケット発射の成功で自信を付けた北朝鮮は、単なる「強盛大国」ではなく世界一を目指し始めたということであろう。さて、世界一になるためには「モランボン楽団」以上の「斬新で進取的」な施策が必要となるわけだが、どこまでやるつもりであろうか。

    「20時報道」:旧正月を楽しむ朝鮮人民 (2013年2月10日 「朝鮮中央TV」)

    昨年の今頃もこのような記事を書いたのかもしれないが、「20時報道」が旧正月を楽しむ朝鮮人民の姿を伝えている。日本の報道でも「春節」という用語が使われているので、日本の「旧正月」と区別するために「春節」と書いた方が良いのかもしれない。いずれにせよ、韓国でも北朝鮮でも「正月」は1月1日ではなく、「旧正:クジョン」のようで、年号は1月1日に変わるが、お祝いは「旧正」に合わせて行っている(韓国については、私がいた頃までは少なくとも。最近もそうだと思うが。)。

    この記事を書いていて気がついたことなのだが、「主体歴」は奇妙である。というのは、同歴は金日成誕生と共に開始する訳なので、彼の誕生日である4月15日に歴が進むべきである。それにもかかわらず、金日成さんとは何の関わりもないイエスキリストの誕生日に「主体歴」の年号が変わってしまう。もちろんその方が合理的(西暦-1911=主体歴)な訳であるが、こだわるのであれば金日成さんの誕生日をもって歴を進めた方が良いような気がする。

    さて、それでは「主体102(2013)」年の「旧正」の様子を見ていくことにする。

    まず、やるべきことは銅像参拝である。報道では、各地の銅像に花束を捧げ、新年の挨拶をする朝鮮人民の姿を伝えている。この光景は「金日成教」の影響下にない我々にとっては実に異様に映るが、事実上宗教のない(正確には、「事実上認められていない」。北朝鮮憲法は別の話)北朝鮮では、「首領様」は心の拠り所であり、「首領様」にいろいろとお願い事をしているのかもしれない。それとも、朝鮮人民にも心の拠り所たるその他の「かみさま」があるのだろうか。つまり、願いがかなかどうかは分からないが、一応賽銭を投げておけば良いことがあるかもしれないという「かみさま」がである。下の写真は、万寿台の丘にある金日成・金正日銅像であるが、金正恩さんの花束も捧げられていた。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13508

    続いて報道では、子供たちによる「正月公演『お日様の祝福』」が開催されたことを伝えている。「お日様」は過去記事にも書いたとおり、金日成さんのことである。以降紹介していく北朝鮮各地の公演でもそうであるが、「光明星3-2」号機が舞台に置かれている(恵山市の公演には映り込んでいなかった)。下の写真では、「光明星3-2」号にふんした人が中央にいる。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13508

    金日成広場でたこ揚げをする子供たち
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13508

    歌を歌う子供たち。背景の看板には、例によって「強盛大国」と書かれている。上に書いた「光明星3-2」号機だけではなく、雪だるまもあちこちに置かれている。昨年の「ソル名節(旧正、ソルは朝鮮・韓国語で正月のこと)」の映像と比べてみることはまだしていないのだが、雪だるまもモランボン公演の「光明星3-2」号機を持った雪だるまの影響なのであろうか。この雪だるまはロケットは持っていないように見える。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13508

    凱旋門広場で縄跳びをする子供たち。アナウンサーは「テコンドーや縄跳びなど、様々な民俗の遊びをしている」と言っているので、縄跳びも朝鮮民族の遊びの一つなのであろう。韓国にいた頃を思い出してみたのだが、縄跳びが韓国の民俗遊びだという話は聞かなかったような記憶がある。韓国「民俗村」に久々に行ってみなくては。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13508

    ビデオ撮影をする子供。これまで、デジカメで撮影をする朝鮮人民はしばしば紹介したが、「20時報道」の中でビデオカメラで撮影する様子を私が確認したのは初めてである。カメラのサイズからして、旧式のビデオカメラではなく、メモリに画像を収録するタイプのビデオカメラのようだ。わざわざビデオカメラの撮影シーンを出しているということは、朝鮮人民にとって「普通のことではない」はずなのだが、こういった機器もある徐々に普及してきているということであろう。北朝鮮の携帯電話にも動画撮影機能があるという話はどこかで読んだのだが。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13508

    平壌体育館ローラースケート場では、雪の上で子供たちがローラースケートをしている。雪の上でローラースケートをするとどういうことが起こるのだろうか。やってみたことはないが、子供たちのローラーには雪がこびりついてあまり進んでいないようである。雪かきをしている人の姿も映っているが(この静止画ではない)、なんとも北朝鮮らしい光景である。子供たちが楽しければそれで良いのだが。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13508

    「意味深い名節の日、首都の休養奉仕ネットワークでは、市民のための名節サービスで忙しかった」とアナウンサーは言っている。綿菓子を食べる家族連れ。敢えて綿菓子を食べる様子を映し出しているということは、綿菓子は特別な食べ物なのだろうか。北朝鮮では「短幕劇」などの中で「キャンディー」をかなり貴重なお菓子として、砂糖を使う綿菓子も「特別」なのかもしれない。思えば、北朝鮮の気候ではサトウキビは栽培できないので、全量輸入のはずである。であるとすれば、外貨が不足している北朝鮮にとっては、「甘い物」が貴重ということになっても不思議ではない。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13508

    楽浪区域の総合食堂「忠誠清涼飲食店」。おもしろいのは、右下の白い看板に「結婚式」と書かれている。この食堂は結婚式場としても使われているようだ。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13508

    「忠誠清涼飲食店」が提供する正月特別メニュー。店員によると、画像中央下の餅のスープを注文するお客さんが多いとのことだ。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13508

    続いて、各地の正月様子を紹介する。江界市でも子供たちによる新年公演「世の中に羨ましいものはない」が行われたが、ロケットが置かれている。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13508

    慈江道の芸術劇場で楽しむ女性同盟員。朝鮮双六やダイヤモンドゲームをやっている。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13508

    江界広場でコマ回しをする子供たち。平壌の子供たちと比べると服が地味のようだ。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13508

    沙里院市での少年公演。この公演では、左には「光明星3-2」、右には「朝鮮」と書かれたロケットが置かれている。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13508

    元山市の少年公演「お日様と花」。モランボン楽団の演奏会に登場した「光明星3-2」を抱えた雪だるまがいる。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13508

    羅先市での少年公演「元帥様の胸の中で私たちは幸福です」。こちらにもロケット雪だるまがいる。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13508

    デジカメで家族写真を撮る一家
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13508

    開城市の広場で遊ぶ子供たち。蹴っているものは玉ではないが、蹴鞠のような遊びをしている。片足で物を蹴るこの遊び、私が知っているだけでも韓国はもちろん、中国やフィリピンでも行われている。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13508

    北朝鮮の指導者も米国を含む周辺諸国の指導者も、この子たちを傷つけるような愚行だけは絶対にしてもらいたくないものである。

    「<朝鮮映画>花に込められた事情」 (2013年2月7日 「朝鮮中央TV」)

    「朝鮮中央TV」が実に面白い映画を放映した。「花に込められた事情」という映画であるが、この時期の「花」といえば、いわずもがな「金正日花」である。この映画は、1992年に制作された映画で、調べてみるとYou Tubeにも昨年の夏辺りにはアップロードされている。全てをくまなく調べたわけではないが、アップロードしたのはuriminzokkiriではない。約1時間半の長い映画であるが、その内容を紹介していく。

    この映画の舞台はほとんどが日本で北朝鮮が舞台になるのは時間にして10分少々である。もちろん、だからといって日本で撮影をしているわけではないが、総連系の会社が撮影したと思われる本当の日本の町並みなども取り込まれている。

    一般家庭の庭で雨の中母親が庭いじりをしていると、マサヒデという子供が蛇の目傘を持って走ってくる。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13467

    このマサヒデ(シモザワ・マサヒデ、以下、マサヒデ)という少年が「金正日花」の作者である主人公である。以下、Wikipedia情報であるが(慶應大の磯崎さんらが書いた本があるのだが、あいにく研究室に置いてあるので参照できない)、「金正日花」の本当の作者は加茂元照(1930年生まれ)さんということである。加茂さんは静岡県掛川市で菖蒲園などを営んでいたとのことであるが、この映画の主人公マサヒデも「富士山の近く」に住んでいることになっているので、モデルが加茂さんであることは間違いない。なお、加茂さんは「根負けして朝鮮人に花を譲ったが、金正日という人物も知らなかった」とのことである。

    Wikipedia、「金正日花」
    http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%91%E6%AD%A3%E6%97%A5%E8%8A%B1

    <追記>
    この映画の主役マサヒデのモデルである加茂元照さんに関する信頼できるHPがあるという情報を頂いた。「花鳥園グループのホームページ」の中にある「自然と花鳥、伝統と革新 本学客員教授 加茂元照さんとの対話」という記事である。加茂さんは東京芸術大学の客員教授もされたようで、当時の同大学長である鷲山恭彦さんとの対話の中で色々とお話しをされている。

    加茂さんは「戦後の農地解放で生活のすべを変える必要がありました」とした上で、「花菖蒲園として拡大整備しました」と述べている。これが、映画中での「ヨシダ社長の援助を受け菖蒲園経営を始めた」という部分の背景にあるのだろう。

    北朝鮮との関係については「冷戦時代に、西ヨーロッパ諸国に花菖蒲を普及する反面、仮想敵国とされていたソ連のモスクワ、レニングラードの植物園、北朝鮮の平壌中央植物園に花菖蒲を植え、講演もしました。お陰で広く植物探索する許可が得られ、ノハナショウブの原産地である東部シベリア、北朝鮮での分布状態、変異を自分の足で見る機会を得ました。花チャンネルは世界中に通じているのです」と述べており、「冷戦時代」が何年頃を指しているのかにもよるが、「金正日はしらなかった」ということはないのではないだろうか。

    このページには、加茂さんの写真も出ているが、眼鏡を掛けているという点でマサヒデと共通している。

    加茂さんと哲学の関係だが、映画の中では「偉大な指導者金正日」という本を読むまでは、あまり関心がないような設定であるが、HPの対談ではフクロウ飼育との関係で「ドイツ人はヘーゲルの残した『ミネルヴァのフクロウは宵闇に飛び立つ』と言う言葉に想いを寄せているように見えます」とも述べており、哲学にも関心を持っておられたように思われる。

    また加茂さんは「日本はアメリカから『本当でない現代』を学び過ぎたのではないですか。そういう愚かさをまだ重ねている。アメリカン・ドリームとかいって、自分中心主義の出世物語から決別していかないと。根本は社会性ですよ」とも述べている。この発言からすると、幅広く知識を得ようとする加茂さんが「主体思想」の本を読んだとしても不思議ではない。さらに、「中国は世界的大不況の中で発展している。経済政策のよさがでていますね。マルクス、レーニン、毛沢東と社会主義に拠ったが、ケインズも読み込んだ」と述べている。恐らく加茂さんは、何とか主義を超越し、良いことは取り入れるべきだと考えているのであろう。

    中国の花鳥園との関連で「球根ベゴニアは華やかで、『中華』という雰囲気にぴったりと思うのですが、メインの花は何になさいますか」という問いに対し、加茂さんは「球根ベゴニアは高山性で中国の気候的に合いません。植物によい温度と、人によい温度が一致した植物を選びます」と答えている。この発想からすると北朝鮮の気候に合わないような「金正日花」を加茂さんが自ら北朝鮮に提供したのであろうかということになる。「20時報道」を見れば分かるように、「金正日花」は温室の中で育てている。それが、2月16日の光明星節に合わせて開花させるための育成方法なのかもしれないが、どうも加茂さんの「植物によい温度と、人によい温度が一致」という発想からは外れているようだ。だとすると、「金正日花」は北朝鮮の気候に合わないと提供を断ったにもかかわらず、朝鮮人に強く頼まれて「金正日花」をやむを得ず提供したということが想像される。

    以上、全て類推であり、事実と異なる事項が含まれているかもしれない。しかし、この映画を見たタイミングで加茂さんの言葉が綴られているこのページを読むことができたのは、本当に大きな収穫だ。「俗説」というのがあるが、真実はやはり北朝鮮の主張と事実を照らし合わせてみないと分からないということをつくづく感じた。改めてこのページの存在を教えてくださった方に謝意を表する。

    それはそうと、明日にでも子供と一緒に「花鳥園」に行ってみたくなった。

    『花鳥園グループホームページ』、「自然と花鳥、伝統と革新 本学客員教授 加茂元照さんとの対話 今月のワシヤマ Vol.49より」
    http://www.kamoltd.co.jp/kke/washiyama.htm

    「蛇の目傘」はないだろうと思ったが、主人公のモデルが加茂さんで、この場面のマサヒデ5才ぐらいと考えれば、時は1935年ということで、蛇の目傘もありなのかもしれない。

    人間がどう生きるのが美しいのかと「お日様」に尋ねたところ、「お日様」は「花のように行きなさい」と答えたという話をするマサヒデの母。「お日様」はこの映画のキーワードの一つである。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13467

    時は流れて、大人になったマサヒデはある島にやってくる。島の居酒屋で登山家の老人と会って、アンデス山に連れて行ってくれるように頼む。左手前の帽子をかぶっている人が登山家、眼鏡を掛けて金を払っているのがマサヒデ。マサヒデは寿司2人前と「酒1本」を頼むが、出てきたのは1升瓶だった。マサヒデがカウンターで注文をするときの日本語は日本語話者(恐らく在日朝鮮人)によるものと思われるが、「酒1本」が1升瓶1本というのは考証が甘い。バックでは日本語の演歌が流れている。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13467

    しかし、登山家は自分の過去を振り返って案内を断る。その理由は、「探検番組」を撮影するというテレビ局に僅かな金で雇われて友人を山に連れて行き、その友人は崖から転落して死んでしまった。テレビ局はその模様を撮影して金を稼いだ悪人だから、もう山には登らないということだ。「金銭万能の腐敗した資本主義社会日本」の逸話その1である。この映画にはこうした「金銭万能の腐敗した資本主義社会日本」を語ったり見せたりするためのシーンがいくつも組み込まれている。

    時は過去に遡る。マサヒデの母は病気にになり死んでしまう。マサヒデには自分がしてきた菖蒲の品種改良を続けてくれと付託する。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13467

    マサヒデは、父の友人である花草園社長ヨシダの助けで菖蒲園を開業し、母の菖蒲も完成させる。ヨシダはマサヒデの菖蒲園に来て、母の菖蒲の特許権を売ることを勧める。借金も抱えていたマサヒデは、「なんだかんだ言っても金がなければ駄目だ、金が」とヨシダにいわれて特許権を売ることを決意する。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13467

    マサヒデにはタケダという哲学者の友人がいる。タケダは自分の研究に挫折したが、主体思想の信奉者になり、後に主体思想研究所の理事になる。そのタケダが、マサヒデが母の菖蒲の特許権を売ったことを知り、喫茶店に呼び出して苦言を呈する。そして、主体思想の本を読むようにマサヒデに勧めるが、マサヒデは自分は学者ではないと乗り気ではない。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13467

    マサヒデはオペラ歌手の友人のコンサートを見た後、花を渡しにその友人の夫人(ダンサー?)の楽屋に行く。夫人は、花を渡されると激怒して花を放り投げる。楽屋にいた中年の女性がタバコを吸いながら、その理由を説明する(中年ぐらいで女性がタバコを吸うのは北朝鮮ではよろしくない。よって、腐敗した事例2)。その女性によると、菖蒲の特許権を買った人間が花を「椿姫」(椿姫は娼婦とも説明する)と命名したとのことである。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13467

    そして、「最近は売春婦が客を誘うのに菖蒲を持って立っている」と話す。帰り道にマサヒデは菖蒲を持って立っている売春婦を目撃してショックを受ける。売春婦は「花を買って下さい(この部分は朝鮮語でコッサセヨ)」と通り過ぎる男性に声を掛けている。この「コッサセヨ」という朝鮮語、定かではないが80年代の韓国でも使われていたような記憶がある。すると、「腐った韓国」からの持ち込みであるが、朝鮮人民にとっては「腐った資本主義社会」であればどうでもいいわけで、腐った事例3となる。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13467

    マサヒデは母の霊前でこのことを報告し詫びる。そして、過去に母と一緒に反原爆女性集会のような場所に行ったことを思い出す。壇上でマサヒデの母は、米国は広島に原爆投下をした飛行士は、自分の母の名前「エノラゲイ」と原爆搭載機に名前を付けたと演説している。米国の非人間性を非難するシーンであるが、この映画を作った当時、北朝鮮は既に核計画を推進していた。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13467

    <追記>
    こちらについても情報を頂いた。映画に出てくるこの集会はやはり反原爆系の集会で「日本母親大会 第1回大会」であろうことが判明した。「日本母親大会」の集会の様子は下記のページに出ているが、コメントを下さった方も書かれているように、映画でも雰囲気はなかなか良く再現している。ただ、映画に出てくる壇上の人々は、どちらかというと北朝鮮の集会の構成となっているのも面白い。

    『日本母親大会』、「写真で見る母親大会」
    http://hahaoyataikai.jp/05_photo/index5.html

    母の死からこれまでの逸話を話した上で、マサヒデは登山家にアンデス山に連れて行ってくれるよう懇願する。登山家はマサヒデの情熱に打たれ、案内することを承諾する。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13467

    2人は南米に飛び、アンデス山に登る。山は吹雪で、登山家は持って行った酒をまいてお祈りをする。このお祈りシーンが日本人の行動を象徴するためのものかは不明であるが、手を合わせて山の神様に自分たちを守ってくれることをお願いしている。もしかすると、当時、生き神様である金日成以外の神様が事実上いない北朝鮮で、前近代的かつ非科学的なお祈りをする日本人の姿を見せたかったのかもしれない。吹雪の中、マサヒデはアゼリア(金正日花の原種)の球根をついに見つけ出す。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13467

    帰宅したマサヒデは早速球根を植える。右端はマサヒデの娘ハナエだが、髪型が中国人のようだ。また、後方にある温室のドアに何か書かれている。全部は見えないが、「よりよい・・・それが・・・!」と書かれており、北朝鮮の工場などに書かれているスローガン的なものなのかもしれない。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13467

    しかし、植えた球根は腐ってしまい、ショックを受けたマサヒデは倒れてしまう。入院したマサヒデの所に主体思想信奉者になった友人のタケダがやってきて、「まだ腐っていない球根はあるかもしれない」と話す。マサヒデはパジャマのまま家に戻り、土の中から腐っていない球根を探し出して喜ぶ。

    マサヒデは、アゼリアの改良を続ける。水をやっているのは成長したハナエ。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13467

    さらに成長したハナエには恋人イワイができる。イワイは銀行頭取の息子である。ハナエとイワイのデートシーンは、なぜか自分たちはゴルフもしていないのに、ゴルフ場を走り回ってはしゃいでいる。ゴルフなど知らぬ朝鮮人民にはどちらでもよいことなのであろう。金銭万能主義の国で金持ちがやりたい放題というは考えすぎであろう。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13467

    その夜、主体思想信奉者のタケダが主体思想研究所の理事に就任し、東京に行くということでマサヒデの家族と共に送別会を開催する。ハナエがタケダに花束を贈呈するが、その時の挨拶言葉は何とも「熱烈に祝賀します(朝鮮語原文の和訳)」と北朝鮮式のところがアンバランスだ。タケダはマサヒデに「思想と制度が人間の花園をどう育てるのかを見てこい」と平壌訪問することを強く勧めると、マサヒデは「平壌といえば、あの朝鮮人少女のことを思い出すな」と語り、また回想シーンに戻る。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13467

    (在日)朝鮮人少女の名前はエイミといい、学校を抜け出してマサヒデの花壇にやってきては花の世話をしている。しかし、ほとんど何も話をしない少女である。マサヒデは、少女の所に行き、自分が昔は母から聞いた「お日様」の話をしてやる。左が(在日)朝鮮人の少女エイミ。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13467

    エイミは幼くして母を失い父親と二人暮らしであるが、生活は苦しく、夜道で花を売って生計を助けていた。マサヒデは、彼女が売春婦に花を売っていることに腹を立て、エイミを突き飛ばす。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13467

    エイミが道路に倒れたところにオートバイが走ってきてエイミは轢かれてしまう。なぜか、オートバイはそのまま走り去ってしまうのだが・・・エイミは病院に運ばれて応急措置は受けるが、入院費用を払うことができないので帰宅させられる。マサヒデは医師の所に行き「今治療をやめたら、彼女は一生足が不自由になってしまう」と治療継続を依頼するが、医師は「手術はするとしても、これから入院を続ければもっと金がかかる」と答える。医療費が全て無料の北朝鮮と違い、命に関わる医療までが金次第という金銭万能主義ということで、事例4である。下の写真は医師と話をするマサヒデであるが、白衣を着ている。「20時報道」に登場する病院訪問者は、しばしば白衣を肩から掛けている。きちんと着るわけでもなく、マサヒデのように肩から掛けているだけのケースが多い(特に、指導者)のであるが、なぜなのだろうか。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13467

    マサヒデの財力ではエイミの入院費を払うことはできなかったが、しばらく後でお詫びの金を持ってエイミの家を訪ねたら、既にエイミと父は北朝鮮に帰っていた。マサヒデの刑事責任も民事責任も全く無視した展開であるが、そこは深く追求しないことにする。

    ここまでで回想シーンは終わり、また時は「今」に戻る。ハナエがイワイの家に遊びに来て話をしていると、イワイがハナエに抱きつこうとする。しかし、ちょうどイワイの妹が部屋に入ってきて、それを見てからかう。登場人物が日本人という設定であったも、北朝鮮映画ではここまでが精一杯か。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13467

    そこにイワイ(イチロウ)の父が取引があるアサノ社長の妻か母と入ってくる。そして、イチロウに自分の会社と取引があるアサノ社長の娘と見合いをするから支度をしろと話す。資本主義社会の政略結婚ということで、事例5。
    イチロウが「私たちは愛し合っています」というと、「銀行頭取の息子が花商人の娘と結婚するだと」と見下す。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13467

    ハナエは家に帰り、その日の経験をマサヒデに泣きながら話す。「お父さん、お金さえあれば人格でも権力でも欲しい物を手に入れられるのに、金がなければ踏みにじられるのが私たちの現実です」と資本主義社会を痛烈に批判する、事例6。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13467

    マサヒデを助けるヨシダがやってきて、マサヒデに娘の幸せを考えるよう説教する。そして、マサヒデが品種改良したアゼリアの特許権を売って金を稼ぐよう勧める。

    悩んだマサヒデは、その夜、主体思想研究所理事長のタケダに電話をするが、タケダは体調を崩して横たわっている。

    するとマサヒデの夫人がやってきて、友人であるオペラ歌手のヤマグチから電話があったと伝える。なぜか二人はディスコで会う。背景には洋楽らしき曲が流れており、手前には酔っ払った若者がコップを持ったまま寝ている。退廃的な資本主義の酒場ということで、事例7。ヤマグチは、仕事が来なくなって困っているから金を貸してくれとマサヒデに頼む。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13467

    そんな話をしている、踊り場の方で金持ちと思われる若者が電話で「金はいくらでも払うから、ある花を全部持ってこい」と話している。花が届くその若者は踊っている仲間に渡すが、仲間は花などに関心はなく投げ捨て踏みつぶす。それを見たマサヒデは花を拾いに行くが、若者に「俺たちが金を払って買った花だ。文句があるのか」と絡まれる。マサヒデが「花を踏みつぶすのは野蛮人のすることだ」というと、若者たちは怒り出す。店の主人とヤマグチが間に入り、マサヒデは店の外に出る。金持ちのやりたい放題で、事例8。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13467

    マサヒデがよって家に帰ると、テレビでタケダ主体思想国際研究所理事長が死去したというニュースが流れている。主体思想国際研究所理事長の死去がニュースになることもないが、何ともテレビの画面がニュースらしくない。もう少し演出が欲しいものだ。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13467

    マサヒデは新幹線に乗って、タケダの通夜に向かう。ここで本当の新幹線が走る画像を使うが、朝鮮人民にとってあの速度で走る列車というのは驚きであろう。腐敗した資本主義と新幹線をどうつなげたのかを知りたいものだ。

    通夜が終わった後、マサヒデはタケダ夫人と話をする。タケダ夫人によれば、タケダはマシヒデを平壌に行かせることができなかったことが、心残りだと話していたとのことである。そして、タケダは自分が書いた金正日秘書の本をマサヒデに渡すよう夫人に付託したという。夫人は、戸棚の中から箱入りの本を持ってくる。箱を開けると出てきたのがこの本である。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13467

    映画では未来社の「偉大な指導者金正日」はタケダの著書ということになっているが、amazonで検索すると著者は卓珍となっている。名前からすると朝鮮人のようでもあるが、この人がタケダのモデルであろうか。

    マサヒデはこの本を熟読し、タケダの意を汲み平壌行きを決意する。マサヒデはアエロフロート機に乗って平壌に到着するが、平壌空港の到着掲示板の表示が面白い。上の2つが高麗航空でそれぞれハバロフスクと北京、次の2つがアエロフロートでモスクワとハバロフスク、一番下の掲示板は回転中であるが、なんとソウルが入っている。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13467

    マサヒデは植物学研究所のシム・ヨンミ博士に案内してもらうことになる。マサヒデはこの時、博士が誰か分からないが、後で彼女が彼が突き飛ばして怪我をさせた少女エイミであることを知る。金日成と金正日が世界の指導者からもらった植物を展示してある植物園を博士と共に見学し「これが全部ただで見られるのですか」と驚くマサヒデ。マサヒデは、ここで「金日成花」を実際に目にすることになる。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13467

    マサヒデは「30代の女性が博士というのは大変でしょう。博士というからには、試験場を何百平米お持ちですか」と尋ねる。すると博士は「先生の仰ることは分かります。しかし、私は博士になるまでお金を払ったことがありません。国が全て面倒を見てくれたのです」と答える。マサヒデは理解できず「では、国はその対価として何を受け取るのですか」と尋ねる。博士は「私が作った花を見て人民が楽しめば、それが国の富となるのです。私もそれで満足を得ることができますし」と答える。続けて「国が全て面倒を見てくれ、みんなが楽に暮らしているので、大金など必要ありません」と話す。これまで批判してきた「金銭万能の腐敗した資本主義社会日本」と正反対の「人民の楽園」がこの部分で語られてる。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13467

    続いて人民文化宮殿と人民大学習堂に話が及び、マサヒデが「どこに行っても人民という表現が多いですね」というと、博士は「人民のために奉仕しなければならないという我が党の高い意志が盛り込まれています」と宣伝が続く。

    その後、博士他数人と食事をしている席でマサヒデが始めた在日朝鮮人少女の話から博士がその少女であることを知り、過去を謝罪する。

    マサヒデは「本当にこの国は、全ての人々を一つの胸に抱く花を咲かせる人間花園であることを、私は心臓で確認した」語る。

    平壌のホテルのマサヒデの机の上には「偉大な指導者金正日」の本が置かれている。次に主体塔のカット、そしてマサヒデが映画冒頭で母親と話した「お日様」の声が流れ、下のカットが映る。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13467

    マサヒデは帰国数飛行機の中で「お母さん、私はお母さんが夢の中で願っておられた人生の『お日様』を見つけました」と心中で語る。もちろんここでいう「お日様」とは、「人民の太陽」である金日成・金正日であり、それを具現した「主体思想」である。

    若干疲れてきたので、以降簡単に書くがマサヒデは帰宅して家族に平壌がいかに素晴らしいところであったのかという話をする。マサヒデの妻と娘は、マサヒデの気持ちを理解する。マサヒデは、金正日にアゼリアを贈呈することを決め、手紙を書く。そして、その発表式で金正日花が公開される。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/php_tmp/download.php?ptype=movie2&no=13467

    最後の部分の説明で手抜きをしたが、大体の内容はお分かりいただけたと思う。この時期にこの映画を放映したのもちろん光明星節(金正日の誕生日)が近づいているからではあるが、敢えて日本が登場する映画を選んだのには訳があると思っている。それについても書きたいが、回を改めて書くことにする。

    <追記>
    本記事に関する貴重なコメントを頂いたので、記事に反映させておく。

    北朝鮮による中国関連報道が安保理決議2087を契機に激減 (2013年2月7日)

    風呂の中でぼんやりと考えていたのだが、今調べてみたら、安保理決議2087が採択されて以来、北朝鮮は明らかに中国に対して不快感を表している。過去記事に「米国に追従する大国」という表現を使って間接的に中国を非難したということは書いたが、「労働新聞」、「朝鮮中央通信」、「朝鮮中央TV」が伝える中国関連のニュースがほとんどなくなった。その実態を調べた結果が以下のとおりである。

    「朝鮮中央TV」の「20時報道」では、1月20日「ハルビン国際雪彫刻祝典」、1月22日「中国で冷温供給体制開発」というニュースを最後に、中国関連の報道は一切ない。

    「朝鮮中央通信」では、1月24日の「金正恩同志の革命活動ニュースを中国とロシアで報道」という配信を最後に、中国関連の配信はされていないようだ。ただし、これは「中国」というキーワード検索の結果であり、いちいち記事を確認したわけではない。

    「労働新聞」では、尖閣問題で中国を支持する記事が1月23日までは日本を非難したり米国を非難する形で多く出されていたが、同日の「危険な軍国化策動」という日本を非難する記事を最後に一切出ていない。これも「釣魚島」をキーワードとして検索した結果ではあるが、「労働新聞」の検索機能はかなり正確なので結果のとおりだと思う。また「中国」をキーワードに検索をすると、2月4日「全面対決戦に全ての人が立ち上がるであろう 在中朝鮮人総連合会傘下で組織された集会開催」という開催地が中国というだけで中国自体とは全く関係ない記事、2月1日の「朝鮮人の名前で命名された体操動作」という記事の中で使われた昨年開催された体操競技大会の開催場所としての中国、1月31日の「核威嚇の根源除去は朝鮮半島平和と安全保障の根本担保」という記事の中で使われた「中朝国境」と「米帝は朝鮮と中国に核爆弾を大量投下」という下り、1月25日の「<愛と情が溢れる我が社会主義制度が一番です>南朝鮮社会と決別し共和国の懐に帰ってきた金クァンホ夫婦、高キョンヒ記者と会見」という記事で使われた「中国にこっそり渡った」という下りがあるだけで、中国自体について伝える記事は一つもない。

    今まで何となく感じていただけであるが、実際に調べてみると、やはり中朝関係は相当に悪化しているようだ。しかし、何回も書いているように中国なしでは北朝鮮は生き残れないことは確実なので、中国と完全に縁を切るということではなく、中国に対する瀬戸際外交を展開しているということだろう。恐らく第3回核実験をちらつかせる威嚇も、外面的には米国をその対象としているが、内実は中国と考えた方が良いであろう。それは、北朝鮮に核実験をやられて一番困る国がとりもなおさず中国だからである。北朝鮮は、朝鮮半島が不安定化したり米国の介入があると中国が困惑することを十分に承知の上で、「安保理決議を実効力あるものにするために協力するのであれば、第3回核実験を強行してあなた(中国)を困らせますよ」と揺さぶりを掛けているのであろう。

    金正恩特使を中国に派遣したという報道もあるが、はたしてどのような話し合いが行われたのであろうか。

    「<政論>白頭山の虎が火の雷鳴を響かせる-『一当百』スローガン50周年に際して-」 (2013年2月6日 「朝鮮中央TV」)

    標記のような番組が「朝鮮中央TV」で放送された。タイトルから、「一当百」、つまり兵士一人が百人の敵を倒すというスローガンについての歴史的解説番組の再放送かと思ったが、そうではなかった。内容的には「一当百」のいわれも分かるなかなか面白い番組である。

    番組ではまず、「一当百」の聖地を紹介する。テドク山という山がその聖地なのだが、金日成さんが1963年2月6日に「新しい雪の道を踏み越え高地に」やってきて、「朝鮮人民軍のスローガンは一当百だ」といったのがその始まりだという。

    テドク山
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-02-06-17.flv

    「一当百」と書かれた石碑、2年後の1965年2月6日に建立されたようだ
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    「人民軍隊を一当百の革命武力に強化しよう 朝鮮人民軍指揮官たちとした談話 1963年2月6日」というタイトルの本の章。金日成選集か何かであろう。
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    「朝鮮は大きな国ではないが、立ち向かう敵は核兵器も含む世界最大軍事力を持つ米帝」というナレーションと共に映る地球儀。過去記事でも話題にしたが、この地球儀の中国地名は音訳(「北京」ではなく「ベイジン」)となっている。
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    「一当百」の力の源泉として「主体の精神」、「強い攻撃力」、「鋼鉄の意志」を挙げている。
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    この力こそが「白頭山の虎の力」だという。
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    「白頭山の虎の力」で「米帝」のスパイ船プエブロ号を1968年1月23日に拿捕
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    プエブロ号事件について「米帝」が署名した「謝罪文」
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    1994年の核危機に際してクリントン大統領が金正日さんに送った書簡について伝える「労働新聞」。書簡には米国が軽水炉を建設することや原油供給をすることなどが書かれている。
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    上書簡の日本語訳は下記を参照。
    『朝鮮新報』、「金正日書記にクリントン大統領が送った保証書簡(94年10月20日)」
    http://www1.korea-np.co.jp/special/gaikou/CHO-MI/chomi-file03.htm

    ここで曲は「パルコルム」に変わり、現在の話になる。ナレーションは「今、この強大な虎の国の前で、米帝オオカミと李明博ネズミ野郎が歯をむき出してうなっている」と読み上げる。
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    そして、安保理決議2078が採択されたことを受け、金正恩さんが党中央軍事委員会拡大会議を招集し「実質的で強度の高い結論を下し」、「このような偉大な名将と共にならば、米帝がでっち上げた国連安保理決議など(朝鮮人民にとって)なんでもない」、「敵と一騎打ちをするのであれば、我々は再び腹を減らしても、いつか必ず米国の首を取ってくると心を決めている」と続ける。

    閲兵をする金正恩
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    2009年4月に光明星2号打ち上げをしたとき、反打撃司令官であった金正恩さんから命令を受けたという空軍飛行士。金正恩さんが反打撃司令官であったという話がこれまで公表されていたのかどうかは分からないが、私には初耳である。
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    この飛行士は、金正恩打撃司令官に「帰還する航路の代わりに、打撃目標をもっと下さい!」
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    「我々には出撃だけがあり、着陸はない!」と誓ったという
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    そして「これこそが金正恩司令官の軍隊であり、このような軍隊はどこの国にもない」というが、その昔、どこかの国にも似たような航空隊があったような気がしてならない。

    続いて、金正恩さんの言葉が紹介される。どこで語った言葉なのかは未確認だが、内容からすると金日成軍事総合大学での演説からかもしれない。
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    「時が流れ世の中が何百回変わっても、変わることができないことが我々の首領様と将軍様と全く同じ我が人民軍隊の革命的本質であり、労働党の旗を第一軍旗として高く掲げて進む白頭山革命強軍の闘争方式です 金正恩」

    ここからモランボン楽団の演奏による「勝利者たち」が流れ、クライマックスに向けて盛り上げる。

    「何十年間も最大の寛大さと自制心を持って語ってきた人間の言葉の全てが、オオカミどもとネズミ野郎どもには絶対に通じないというのが我々の結論である」
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    「英雄的朝鮮人民軍よ!敬愛する元帥様が命令さえ下されれば」
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    「一当百、この偉大な力で敵の牙城を煮えたぎる溶岩で永遠に覆い尽くし、世界の戦争史にない最も輝かしい戦勝を達成しろ!」
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    「英雄的朝鮮人民よ!宇宙を征服したその精神、その気迫で」
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    「この地に世界が羨む天下一の強国を打ち立てよう!」
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    「世界よ!白頭山の虎の吠える火の雷鳴を聞け!」
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    こうこの番組は終わっている。どうやら「一当百」の解説・回顧を兼ね、金正恩さんを持ち上げながら、「米帝」と決戦を鼓舞する内容のようだ。2009年4月当時、金正恩さんが「反打撃司令官」であったという話や、「天下第一強国」という新しい言葉も登場している(ただし、朝鮮語で「第一」は「一番(=最高、最も)」を意味するので、「天下一の強国」と言った方が適切かもしれない)。

    果たして「白頭山の虎」は「火の雷鳴(核爆発の音)」のように吠えるのであろうか。

    「20時報道」:チェーン着装トラック、パキスタンの酒瓶割り、イランの猿ロケット (2013年2月6日 「朝鮮中央TV」

    たいした話ではないのだが、気がついたので記事にしておく。

    下の写真のトラックはセポ台地に堆肥を運んできたトラックであるが、チェーンを着装している。「20時報道」には堆肥を運んだりくず鉄を運ぶトラックが雪が積もった道路や凍結した道路を走る映像がしばしば出るが、チェーンを着装したトラックを確認できたのはこれが初めてだと思う。もしかすると、平地ではスピードも出さない(出せない)し、重量があるのでチェーンなしでもスリップしないからなのかもしれないが、さすがに「台地」なので、現場に到着するまでに急坂でもあるのだろうか。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-02-05-17.flv

    また、パキスタン税関当局が押収した「統制品」を処理するニュースも伝えている。このなかで、アナウンサーは「人間の健康に有害なアルコールや麻薬」と説明しているが、朝鮮人民はなぜ高価そうに見える酒類の瓶を割っているのか理解できるのであろうか。金を払って「健康に有害なアルコール」を買っている我が身としては、実に勿体なく見えるのだが。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-02-05-17.flv

    そういえば、一昨日の「20時報道」国際情勢ニュースでは、イランが猿を乗せたロケットを打ち上げたニュースを伝えていた(字幕は「宇宙機具発射」となっている。「宇宙機具」とは?)。「銀河3-2号機」とは比べものにもならないような小さなロケットであるが、「高度120キロまで上昇させ、損傷させないまま着陸させた」とアナウンサーは言っている。核もミサイルも北朝鮮が一枚上手であるが、米国にとってはイスラエルとの関係で北朝鮮以上に頭の痛いイランである。
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    「開城工業地区に対する『制裁』騒動は、大きな代価を支払うことになるであろう -民族経済協力委員会スポークスマン談話-」 (2013年2月6日 「朝鮮中央通信」)

    「朝鮮中央通信」が、韓国「統一部」が「開城工業団地など、対北搬出物品に対する点検を強化する」と発表したことに反発する「民族経済協力委員会スポークスマン談話」を伝えた。

    『聯合ニュース』:「통일부 "개성공단 등 대북 반출물품 점검 강화"」
    http://www.yonhapnews.co.kr/politics/2013/02/04/0521000000AKR20130204067100043.HTML

    「談話」では、「検索を強化しようとすることは、また一つの反共和国対決妄動であり、北南関係を一層破局に押しやる反民族的犯罪行為である」と非難し、開城工業地帯は「我々が軍事的に極度に敏感な最前線地域を丸ごと南側に差し出した民族の和解と団合、協力の象徴であ」り、それは「南朝鮮の中小企業と零細民に対する同胞愛の情に基づく」、「英断」であるのだから、「(李明博)逆賊一味があたかも我々が開城工業地区事業で大きな利益を得ているように騒ぎ立てるのは、根拠のない逆説である」と主張している。

    そして「我々は6.15精神の立場から開城工業地区の存続を望むが、万が一、誰かがどんな形態であれ工業地区に少しでも手を付けるのであれば、我々に対する極悪な『制裁』とみなし、開城工業地区に対する全ての特恵を撤回し、その地域を我々の軍事地域に再び戻すなどの断固たる対応措置を執る」と警告し、「それによりもたらされる厳しい結果に対する責任は全的に李明博逆賊一味が取らなければならない」としている。

    実は、昨日の研究会でも開城工業団地の問題に触れたのだが、実に南北関係が険悪な状況下でも同団地は大方正常に操業してきた。これは、韓国にとっても北朝鮮にとっても、それぞれ異なる「正常操業」させなければならない理由があるからで、それは「民族和解」云々という「美しい」理由ではない。簡単にいってしまえば、韓国政府にとっては、政府が旗を振って開城工業団地に投資させた企業に対する責任の問題があるし、北朝鮮にとっては、いうまでもなく、開城工業団地を通して入ってくる外貨が重要であるからである。しかしそれ以上に、開城には北朝鮮が言うように労働集約的な「中小企業」が中心に投資をしており、韓国にとっては一世代も二世代も前の技術であるが、北朝鮮にとっては、開城で技術や「資本主義的」な経営管理を学ぶことに外貨獲得以上の意味があるはずであるし、また韓国にとっても、韓国企業がおやつとして配った「チョコパイ」を北朝鮮労働者が持ち帰って売ったという話もあるように、開城工業団地は「資本主義」をゆっくりと浸透させる効果もある(「チョコパイ」は、私が韓国にいた頃からずっとあるお菓子だが、安くて美味しい)。

    北朝鮮は「軍事地域に再び戻す」、つまり韓国人従業員は人質にしないまでも工場等は全て没収すると威嚇しているが、北朝鮮にとってそれが望ましくないのは上に書いたような理由からも明白で、「談話」の行間には実はそうしたくないという希望が見え隠れしている。

    韓国政府は、開城工業団地は「制裁」と切り離し、中・長期的視点から「正常操業」を続けられるようにすべきでだと思う。

    「敬愛する金正恩同志が各国の様々な党及び国家首班に年賀状を送られた」 (2013年2月5日 「労働新聞」)

    記事は『労働新聞』の記事であるが、このところ「20時報道」のトップニュースは金正恩さんが誰それに年賀状を送っただの受け取っただのという話だった。つまらないので聞き流していたのだが、4日の「20時報道」では「国連事務総長に送った」と伝えたので、「はっ」と思ったのだが、国連加盟国なのだから儀礼的なものなのかと軽く流していた。

    今朝の『朝鮮日報』を読んでいたら、金正恩さんが「中国とロシアに年賀状を送らなかった」と書かれており、慌てて『労働新聞』の当該記事を開いてみた。

    『朝鮮日報日本語版』、「 金正恩氏、中ロ首脳に年賀状を送らず」
    http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130206-00000723-chosun-kr

    『労働新聞』、「경애하는 김 정 은동지께서 여러 나라 당 및 국가수반들에게 년하장을 보내시였다」
    http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2013-02-05-0001

    『労働新聞』の当該記事を読むと、確かに中国とロシアは発送先に含まれていない。参考までに昨年2月8日の『労働新聞』に掲載された年賀状発送先に関する記事を確認すると「中華人民共和国主席」がトップに掲載されているが、ロシア連邦大統領には送っていない。また、国連事務総長にも送っていない。

    『労働新聞』、「경애하는 김 정 은동지께서 여러 나라 당 및 국가수반들에게 년하장과 축전을 보내시였다」(2012年2月8日)
    http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-02-08-0004&chAction=D

    さらに遡って2011年2月6日の同記事を見ると、「中華人民共和国主席」の次に「ロシア連邦大統領」が来ている。どうやら、金正日さんまでは中ロ両指導者に年賀状を送っており、国連事務総長にも送っている。

    『労働新聞』、「위대한 령도자 김 정 일동지께서 여러 나라 당 및 국가령도자들에게 년하장을 보내시였다」(2011年2月6日)
    http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2011-02-06-0001&chAction=D

    ロシア大統領は昨年からリストより除外されているので特記すべき事項ではないが、中国の指導者に対して送らないのは異常である。

    『労働新聞』を検索すると、2012年12月29日に「中国共産党中央委員会総書記習近平同志が年賀状を送ってきた」、同30日には「胡錦濤同志と温家宝同志が年賀状を送ってきた」という記事が掲載されている。中国の指導部交代が昨年11月にあったので、両指導部の首班から年賀状を受け取った形だが、彼らに返事を出していないということになる。

    『労働新聞』、「경애하는 김 정 은동지께 중국공산당 중앙위원회 총서기 습근평동지가 년하장을 보내여왔다」
    http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-12-29-0001&chAction=D

    『労働新聞』、「경애하는 김 정 은동지께 호금도동지와 온가보동지가 년하장들을 보내여왔다」
    http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2012-12-30-0007&chAction=D

    金正恩さんが実際にどのタイミングで年賀状を出しているのかというのは分からないが、『労働新聞』に発送の記事が出た直前だとすれば、安保理制裁決議に賛成した中国指導部に対する強い不快感の表明であろう。ただし、今年に関しては新旧指導者両方から年賀状を受け取っているので、返信の仕方を報じる適切なひな形がなかったので報道を見送った可能性がある。つまり、序列の問題で胡錦濤、習近平どちらをトップに載せるのかで迷った可能性はある。北朝鮮のように前任者が死去しない限り指導者が交代しない国では、この辺りの判断ができないのかもしれない。

    また、昨年は出さなかった国連事務総長に敢えて今年再び年賀状を送り始めたのも、金正日時代を踏襲する以上の意味があるのかもしれない。

    「銀河-9号に乗って」 (2013年2月3日 「uriminzokkiri-TV」)

    中国軍艦によるレーダー照射事件に関する米国務省のコメントを確認するために、同省定例記者会見を読みに行ったのだが、そこに行き着く前におもしろい記事を発見した。uriminzokkiri-TVに掲載された動画であるが、なかなか凄い内容である。では、その動画を紹介する。

    この動画の背景には、「We are the World」のインストルメンタルが流れているのを想像しながら読んで頂きたい。

    「昨日の夜、本当に美しい夢が展開しました」
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    Source: uriminzokkiri-TV, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=ucc&st=true&no=13413

    「私が『銀河-9号』に乗って宇宙に向かって飛んでいくではないですか」
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    Source: uriminzokkiri-TV, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=ucc&st=true&no=13413

    宇宙を飛ぶ「銀河-9号」
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    Source: uriminzokkiri-TV, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=ucc&st=true&no=13413

    「喜びと歓喜の中で宇宙飛行船『光明星-21』号が分離され荘厳で無限の宇宙空間を飛んでいます」(左端に見える丸いものが「光明星-21号」のようだ)
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    Source: uriminzokkiri-TV, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=ucc&st=true&no=13413

    スペースシャトルに似た「光明星-21号」
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    Source: uriminzokkiri-TV, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=ucc&st=true&no=13413

    「窓から見える美しいカラーと鮮明なコントラスト」
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    Source: uriminzokkiri-TV, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=ucc&st=true&no=13413

    「暗闇の中で輝く星、完璧な青い地球に向かって、続けてカメラのシャッターを押したのだが」
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    Source: uriminzokkiri-TV, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=ucc&st=true&no=13413

    「レンズを通して一つになった祖国の野山にはためく統一旗が突然浮かび上がってきます」
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    Source: uriminzokkiri-TV, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=ucc&st=true&no=13413

    「激情の波がカメラを持った私の手までも震えさせ」
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    Source: uriminzokkiri-TV, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=ucc&st=true&no=13413

    「アメリカ(「米国」とは言っていない)のどこかで黒い煙が見えます」
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    Source: uriminzokkiri-TV, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=ucc&st=true&no=13413

    レンズを通してみる米国と星条旗、地上では火炎が上がっている
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    Source: uriminzokkiri-TV, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=ucc&st=true&no=13413

    「多分、強権と専横、侵略戦争だけを行ってきた悪の巣窟が、私がつけた火で燃えているようです」
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    戦闘機のようなものがビルに突っ込んでいく
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    ビルは大爆発をする
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    「自由で平和な世界が、光芒感と感嘆だけを生み出す宇宙が、私たちの宇宙飛行船『光明星-21」号機を祝福してくれているような感じでした」
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    Source: uriminzokkiri-TV, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=ucc&st=true&no=13413

    「皆さん、考えてみてください。太陽の明るい光で溢れる宇宙のその全てのものを背景に飛んでいる朝鮮の宇宙飛行船を」
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    「私の夢は必ずや実現されることでしょう。帝国主義者たちのあらゆる孤立圧殺策動(に)も(かかわらず)、統一され強盛富興する白頭山大国」
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    Source: uriminzokkiri-TV, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=ucc&st=true&no=13413

    「最後の勝利に向かって前進する我が人民の前途は絶対に遮ることはできないでしょう」
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    「写真愛好家 チャン・ヨンホ」
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    Source: uriminzokkiri-TV, http://www.uriminzokkiri.com/itv/index.php?ppt=ucc&st=true&no=13413

    動画は3分半ほどであるが、「We are the World」との組み合わせなど、米国を「挑発」するにはなかなかのできである。特に、航空機がビルに突っ込むシーンなど、米国にとって最大の恥辱である9.11を彷彿されている。

    話を米国務省定例記者会見に戻すと、ヌーランド報道官は記者からのこの動画についてのコメントを求められ、「ビデオは見たが、それにコメントすることによってビデオを権威づけるつもりはない」とコメントを避けている。それにもかかわらず、北朝鮮にとっては米国務省報道官にこの動画を見させ、「憤慨」とまでは行かないにしても「不快感」を与えることができたとすれば、この動画を作成し公開した意味は十分にあるといえよう。

    Department of State, "Daily Press Briefing",
    http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2013/02/203780.htm#NORTHKOREA

    「銀河-9号」は、モランボン楽団の演奏会などに置かれていたが、「光明星-21」号は今回初登場した。北朝鮮が有人宇宙船、しかもスペースシャトルのようにリユース可能な宇宙船を打ち上げることは、それこそ「夢」であろうが、宇宙から美しい地球を「キヤノン製のカメラで」撮影する夢と米国を火の海にする夢を同時に実現しようとするのがいかにも北朝鮮らしい。

    この動画はuriminzokkiri-TVで公開されているので、一般の朝鮮人民は見ていないはずである。「朝鮮中央TV」で放送しても良さそうなものだが、衝撃的すぎるのであろうか。これからはuriminzokkiri-TVもこまめにチェックしてみる必要がありそうだ。You Tubeにもこの動画関連の報道動画がいくつか掲載されていた。これも、大きな資金を投じることなく、敵国の資源を使ってプロパガンダを発信することができてしまうという、インターネット時代を象徴する事象の一つであろう。それをやらかす北朝鮮も、シャットダウンしない米国も天晴れという感じだ。

    さて、肝心のレーダー照射へのコメントを読むことにする。

    <追記>
    今見たら、uriminzokkiriから消えていた。反響が大きすぎたからであろうか。
    字幕付きをアップロードしておいた。
    http://www.youtube.com/watch?v=tnIKlo9QjeI

    「朝鮮で鉱泉法採択」 (2013年2月5日 「朝鮮中央通信」)

    危うく核実験騒ぎに埋もれそうな記事があった。北朝鮮で「鉱泉法」が採択され、最高人民会議常任委員会の政令として発表されたとのことである。記事によると「鉱泉法」は「鉱泉の探査と開発、利用、保護において制度と秩序を厳重に打ち立て、人民の健康を積極的に保護増進することに貢献することをその使命とする」とている。よく分からないのだが、北朝鮮で「鉱泉」が乱開発されており、それを保護する必要が出てきたということだろうか。過去記事で「<短幕劇>熱い泉の水」についてかいたが、それに出てくる「泉」も「鉱泉」に属するのであろうか。だとすると、かなり前から鉱泉の「探査」は行われており、場合によっては乱用されているのかもしれない。

    「鉱泉法」は「鉱泉に対する人民の需要を円満に充足し、国家的な鉱泉保護体系を整然と打ち立て、鉱泉の利用秩序を正しく確立し、人民の病気治療と健康増進に効果的に利用できるようにする確固たる法的基礎を築いた」としているので、日本で温泉の成分分析をして「療養効果」を表示しているように、北朝鮮でもそれに類似したことをするために「鉱泉法」を採択したのかもしれない。

    根源には金正恩さんの「国土管理」理念があるのかもしれないが、おもしろい。世の中を核実験騒ぎに巻き込んでおきながら、一方で「鉱泉法」を採択するなど、北朝鮮というのは実に奇妙かつ大胆な国である。

    <追記>
    そう思ったら、「朝鮮で国土環境保護部門関係者会議開催」という記事もあった。しかし、「鉱泉法」に関する直接の言及はない。会議体が異なるからかもしれないが。

    「横暴な二重基準は千百倍の対応をもたらすであろう -朝鮮中央通信社論評-」 (2013年2月5日 「朝鮮中央通信」)

    今書いた「想像を超越する」という記事と前後し標記のような記事も「朝鮮中央通信」が配信した。この記事では日本の偵察衛星打ち上げをターゲットに、「二重基準」について論じている。おもしろいことは、依然として「南朝鮮」の羅老ロケットについては一切触れていない点である。「同族のロケット発射は祝福すべき」といった手前非難できないのかもしれないが、やはりそれよりもこればかりは本当に触れたくないのであろう。中国のChina Dailyの記事の中でも、こうした北朝鮮の心情を察した部分があるので興味深い。

    China Daily.com, "Promoting peace on Korean Peninsula",
    http://usa.chinadaily.com.cn/opinion/2013-02/05/content_16200864.htm

    さて、問題の日本非難の部分を見ていくことにする。それが事実かどうかは分からないが、同記事によれば「日本が偵察衛星を打ち上げ、米国をはじめとする国連安保理構成国が次々とミサイル迎撃試験という事実を公表した」そうだ。日本が打ち上げたのが偵察衛星であることまでは事実だが、それが「ミサイル迎撃試験」というのはどういうことだろうか。ミサイル迎撃と衛星打ち上げは「弾道ミサイル技術」を使うにしても根本的に異なるはずである。それを一緒くたにするのが北朝鮮の衛星発射とミサイル発射と同じだと言いたいのであろうか。

    そして米国は「我々の衛星発射を問題視」するのに日本の「ミサイル試験に対しては口を閉ざしている」とし、「戦犯国の偵察衛星と覇権主義的なミサイル武力現代化に対しては全く問題」にしないことが「不公正と二重基準の極致」であると非難している。過去記事で米国務省記者会見で「韓国の羅老ロケット発射成功は、北朝鮮にとっては脅威にならないのか」と質問した記者がいたとかいたが、まさにこの北朝鮮の「論評」は、韓国と日本を言い替えただけで、日本の衛星ロケット打ち上げこそが「ミサイル武力現代化」であり、彼らにとっての脅威であるといっているようなものである。

    続いて、北朝鮮に対する「二重基準」の適用を非難し、最後に「好戦勢力は、我々が既に内外に聖戦を布告した状態であるということを一時も忘れてはならない」、「破廉恥な二重基準と暴悪な敵対行為は、我々の超強硬対応を免れることができないであろう」と締めくくっている。

    「我々の選択は敵対勢力の想像を超越するであろう」 (2013年2月5日 「朝鮮中央通信」)

    標記のようなタイトルの「論評」を「朝鮮中央通信」が報じた。その主要内容を書いておく。

    「論評」では、米国が「核戦争武力を朝鮮半島と周辺地域に集中展開している」とし、「我々の核・ミサイル基地に対する『精密打撃』を目的に本土にあった『B-2』ステルス爆撃機を最近朝鮮半島に近いグアム島に移動は位置させ」、「これに先だち1月26日には、カリフォルニア州中部海岸で邀撃ミサイル試験を行った」。さらに、「朝鮮東海で米軍核潜水艦まで動員し、南朝鮮傀儡共と『北核施設』をターゲットとした連合体潜水艦訓練に狂奔している」と昨今の朝鮮半島周辺の軍事情勢を分析している。

    そして、「我々には国の経済発展のための安定と平和的環境も必要である」が、「我々において自主権は生存権であり自決権であり、発展権である」にもかかわらず、「対朝鮮敵対行為が国際社会の普遍的理解と規範の限界を完全に超えており、それに対応する我々の選択も敵対勢力の想像を超えたものとなるであろう」と威嚇している。

    さらに加えて「敵対勢力の度重なる核戦争挑発策動に対処し、核実験より強力なこともしなければならないというのが、今日、我々が到達した最終結論である」としている。「核実験よりも強力なこと」というのは一体何なのだろうか。可能性としては韓国に対する攻撃がありうるが、少なくとも李明博政権よりも対北朝鮮融和的な朴槿恵新政権のスタートを前にして韓国を攻撃するのは、全く理にかなっていない。あるいは、過去記事で李明博さんの言葉を引用しながら書いたように「複数の場所での核実験」を意味しているのかもしれないが、それも「核実験」であるには変わりない。しかし、「最終結論」が「民心の要求である」とも書いている。「結論」は金正恩さんが出したはずであるが、いつ「民心」にすり替わったのであろうか。もちろん、「一心団結」であれば指導者の「結論=民心」であっても不思議はないのであるが。

    もしかすると、強力な威嚇をしながらも核実験には踏み切れないでいる何かがあるのかもしれない。

    「<実況録画>朝鮮労働党第4回細胞秘書大会参加者たちのためのモランボン楽団、朝鮮人民軍功勲国家合唱団の合同公演『母の声』」 (2013年2月4日 「朝鮮中央TV」)

    第4回細胞秘書代表大会のフィナーレを飾るコンサートが開催された。このコンサートには、金正恩さんは参席しなかった。今回のコンサートは、細胞秘書代表大会にちなんで開催されたということもなり、労働党関連の曲が大部分であった。音楽会のタイトル「母の声」は、例によって「母=労働党」という話で、金正恩さんの母とは関係ない。

    金正恩さんが参席しないので「第一号歓迎曲」の演奏はなく、拍手の中、党幹部が入場する。その後、北朝鮮国家「愛国歌」が演奏され、続いて「インターナショナル」を人民軍合唱団が歌う。演奏は人民軍の楽団とモランボン楽団のコラボの形を取るが、途中からモランボン楽団のドラムが合流しなかなかシブイ「インターナショナル」となる。21世紀に「インターナショナル」を歌い続けている国も少ないと思うが、それはそれでなかなかこの演奏は21世紀的であることは間違いない。

    その後、演奏会のタイトル曲である「母の声(オモニモクソリ)」から演奏が始まる。

    モランボン楽団の団員は髪の毛を短くカットした。「李雪主スタイル」が北朝鮮で流行しているという話を読んだことがあるが、彼女らもまねたのであろうか。下の写真は、モランボン楽団団長である。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-02-04-19.flv

    今回の公演は、コラボしているということもあり、あまり派手ではない。しかし、見ているとモランボン楽団向きの曲とそうではない曲とでは、演出やカメラワークが明らかに異なっていることが分かる。その端的な例が「一気に(タンスメ)」で、それまでの緩慢としたカメラワークから、次々とカメラを切り替えるモランボン楽団のコンサートらしい映像になる。特に今回は、真上から真下を垂直に見下ろすカメラを使用しているが、これはこれまで見られなかった撮影技法ではないだろうか。下の写真のようなカットが2回使われている。床の色もこっている。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-02-04-19.flv

    「一気に(タンスメ)」は光明星3-2号打ち上げのテーマソングになったようで、これからのコンサートでもしばしば演奏されることになろう。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-02-04-19.flv

    さらに興味深いことは、人民軍楽団も同曲演奏中にはかなり楽器を揺り動かしながら、モランボン楽団的な演奏をしていることである。人民軍楽団には指揮者がいるので、演奏指導は彼がしているのであろうが、「一気に(タンスメ)」のようなモランボン楽団の曲は、モランボン団長が演出までしているのかもしれない。静止画では分かりにくいが、楽器をかなり振りながら演奏をする人民軍楽団。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-02-04-19.flv

    全ての曲を聞いたわけではなく、かなり飛ばしながら聞いたのだが「高くはばたけ我々の党旗(ノッピ・ナルリョラ・ウリウィタンギ)」は良い曲だ。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-02-04-19.flv

    ステージの背景には労働党旗がたくさん立っているが、それに風を当ててたなびかせるという細かい演出も見られる。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-02-04-19.flv

    そして最後の曲は「党を歌おう(タンウル・ノレハノラ)」である。この曲の背景画面には、金正日・金正恩さんが多く登場する。特に「あなたを私は歌う」という部分で金正恩さんが大きく映し出される。曲のタイトルからすれば「あなた=労働党」なのであるが、この背景画面と組み合わせることで「あなた=労働党=金正恩」という構図を演出しようとしている。実に、金正恩さんが丸2日会議に出席するなど、今回の党細胞代表大会には相当の力を入れたのではないだろうか。そしてその「総話(総括)」が「労働党=金正恩」という図式のような気がする。金正恩さんのカリスマ性が低いからなのか、それとも彼の中で個人崇拝ではなく党が指導していく体制を築きたいと考えているのかは分からないが、注目しておくべき点ではないだろうか。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-02-04-19.flv

    「李明博大統領インタビュー」:北朝鮮を刺激する内容 (2013年2月5日 「朝鮮日報」)

    韓国の新聞「朝鮮日報」のweb版「chosun.com」に李明博大統領と同紙のインタビューが掲載された。主として、同大統領の就任期間に起こった出来事についてのインタビューであるが、北朝鮮問題についても多く触れている。

    1.天安号沈没事件
    就任期間中に最も心を痛めたことは天安号の沈没事件だと李明博さんは述べている。そして、「天安号を沈没させた北朝鮮の魚雷を発見したのが『国運』だ」とし、そこに書かれている「1番」という文字こそが、それが北朝鮮の魚雷であることの証明であり、それを見た「米国も驚いた」と語っている。それにもかかわらず、この魚雷が「偽物」であるという声があったが、「これこそが韓国の現実」であり「左派進歩ではなく、むしろ従北勢力と見なさなければならない」と述べている。そして、「今回引き上げた北朝鮮のロケットにも番号が書かれていたが、これについては何も言わなかった」、「北朝鮮がロケットを発射したといったのだから何も言わないのだろう」と不満をにじませた。

    2.ヨンピョン島砲撃事件
    北朝鮮によりヨンピョン島が砲撃させたとき「(韓国軍の反撃により)戦線を拡大するなとは言わなかった」ばかりか、「空軍は何をやっているのか」と叱責した述べた。しかし、軍出身者が戦線拡大に反対し「米国と協議しなければならない」と主張したという。そのため、その足で合同参謀本部と国防部に向かい「交戦規則は守らなければならないが、これは我が領土を侵犯された事件だ。国土を守ることは交戦規則とは関係ない」と命令したとのことだ。後で確認したところ交戦規則にはそんなことは書かれていなかったが、「金大中・盧武鉉時代の10年間はできないようにしていたので、そうなってしまったようだ」と述べている。そしてその後は「北朝鮮が挑発してきた場合、現場で積極的に対応し、報告は後でしろ」、「我が領土を攻撃されたなら、攻撃部隊だけではなく支援勢力まで陸海空から攻撃しろ」と命令したという。

    『朝鮮日報』、「[이명박 대통령 인터뷰] "임기중 가장 가슴 아팠던 건 천안함 폭침… 北 연평도 도발땐, 공군 뒀다 뭐하냐고 했다"」
    http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2013/02/05/2013020500227.html

    3.中韓関係と北朝鮮
    中韓関係と中朝関係については「マスコミで報道される以上に良く、中朝関係はマスコミで報道される以下だ」と述べている。特に4月のロケット発射失敗以降、中国人が「金正恩指導者」という言葉を使わなくなり、「若い人」と呼んでいるので「驚いた」という。また、以前は中国人と「統一」について語ることはできなかったが、最近は「私的な席で統一について語ることができるようになった」し、中国国内で「大韓民国中心で統一されることが中国の国益に反しない」という論文が掲載されるようになったのも大きな変化の表れだとしている。

    また、北朝鮮が第3回核実験を行った場合、中朝関係はどうなるかという質問に対し「(北朝鮮の核実験は)発足間もない習近平総書記に非常に悪い影響を与えるであろう。外面的には中朝関係が断絶するということはないだろうが、中国は今後、政府レベルの対北投資をしないであろう。中国では、政府が投資しなければ、民間も投資をしない。北朝鮮が外国人投資誘致に熱を上げている状況で、中国がそうするのではないかと思う」と答えている。

    上で述べた「北朝鮮が挑発した場合は・・支援勢力まで叩け」という決定を中国を通じて北朝鮮に通告した。「戴秉国外務担当国務委員は、北朝鮮に行った後、私の所に来て北朝鮮に通報した事実を知らせた」ともしている。

    『朝鮮日報』、「[이명박 대통령 인터뷰] "이젠 中과도 사석서 통일 얘기… 그들은 김정은을 '젊은 사람' 지칭"」
    http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2013/02/05/2013020500223.html

    4.北朝鮮による第3回核実験
    日本のマスコミでは、この部分だけが伝えられているが「北朝鮮は、一度に2カ所以上で同時に(第3回核実験を)行うようだ」とし、「高い水準の核実験」については「小型核兵器を作ろうとすること」であり「もし、北朝鮮が小型核兵器の実験をするのなら、危険段階に突入する」、「北朝鮮が小型核兵器を作り、外国に送ったりICBMに搭載すれば、本当に危険になる」と述べている。

    『中央日報』、「李대통령 "北 동시다발 핵실험 할수도"」
    http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2013/02/05/2013020500126.html

    北朝鮮は、この李明博さんの発言についてまだ論評などを出していない。しかし、遅かれ早かれ、祖国平和統一委員会、国防委員会、外務省いずれかの「声明」でこれに反発するであろう。李明博さんの任期切れも迫っているので、この時期にインタビューを受け、こうしたやりとりをするということはありえるが、タイミングが悪すぎる。外面的には「核実験中止」を求めているように読めるが、内容的にはやれるならやってみろ「挑発」である。少なくとも北朝鮮はそう受け止めるであろう。李明博さんがそれを意識しているのかどうかは分からない。彼としては、任期満了を前に自分の行ってきた対北朝鮮政策が総合的に正しいものであったということを主張したいだけなのかもしれないが、これ以上悪化させることは朴槿恵次期政権に禍根を残すだけである。

    昨年8月の竹島上陸もそうであるが、その背景にある主張は理解できるにせよ、もう少し事態を達観した行動ができないものかと考えてしまう。

    「我々に対する『制裁』は通用しない」 (2013年2月4日 「労働新聞」)

    基本的には金正恩さんの「結論」記事の内容を踏襲したものであるが、この記事には制裁と経済発展の関係がより具体的に書かれている。

    「米国は、我が共和国にもっと長期間、そして最も不当で悪辣に制裁を加えている」とし、「我が共和国を孤立・窒息させようと、貿易、金融、投資、不動産、保険、輸送、郵便通信、往来など、全ての分野に対する体系的で全面的な『制裁』策動を執拗に行っている。現在、米国が我々に対して強行している『制裁』は、軍事分野は言うまでもなく、主要工場設備、先端技術から人民生活に必要な物資に至るまでほとんど全ての分野の取引を制限・禁止させている。また、国連安保理『決議』などを通して、我々に対する資産凍結、金融取引遮断、借款契約の禁止、公開状での船舶検索、『禁止物資』の押収、全ての武器と関連物資の搬入と搬出統制措置をとっている」とかなり具体的にその事例を挙げている。

    そして、「金正日同志が生涯を掛けて作られた自衛的な戦争抑止力に基づき、今や人民が再び腹を空かせないように経済建設に集中しようとしていた我々の努力には重大な難関が作り出された」とし、軍事力増加から経済建設に国家の中心課題をシフトさせようとしていたときに「米国とその追従勢力による制裁」により、再びそれを軍事に戻さなければならなくなったという主張を展開している。

    記事は「敵対勢力の不当な『制裁』騒動は、我が軍隊と人民にさらに強力な自衛的措置としてそれに対応していかなければならないという決心を固めさせるだけである」とし、「世界は、我が軍と人民がどのように敵対勢力を懲罰し、最後の勝利者となるのかをはっきりと見ることになるであろう」と締めくくっている。もちろん、「強力な自衛措置」は核実験を指している。

    この記事の中で北朝鮮が、これまでの「制裁」にもかかわらず、中国というバックドアを通じて解決することができた問題を具体的に示しいるのは、今回の制裁に中国が積極的に協力することになったということを示しているのであろうか。そうであるとすれば、今回の第3回核実験威嚇は、過去記事にも書いたとおり、表面的には米国を攻撃しながらも、実質的には中国が米国の制裁に協力しないようにさせようとする瀬戸際戦術なのかもしれない。

    中国は、国連安保理決議2087号の採択に同意しただけではなく、米国からその実効性を保障することを求められて一旦は同意したのかもしれない。それを北朝鮮に伝えたところ、事実上、北朝鮮を「窒息」させる中国のバックドア閉鎖に強く反対しているとも考えられる。その重みに違いがあるとはいえ、ロケット発射後の「報道声明」に対して北朝鮮はこれほど強く反応しなかった。

    そこで、北朝鮮をこれ以上刺激したくない中国が米国務省補佐官を北京に招いてこの問題について議論しているのであろう。韓国の特使も3日、北京に行ったとのことであるが、この問題については韓国はあまり立ち入る隙はないであろう。この点日本も同じで、日米外相の電話会談は北朝鮮の核実験に反対するジェスチャーに過ぎない。

    いずれにせよ、事態を注視する必要はある。

    『労働新聞』、「우리에 대한 《제재》는 통하지 않는다」
    http://www.rodong.rep.kp/InterKo/index.php?strPageID=SF01_02_01&newsID=2013-02-04-0042

    「金正恩同志の指導の下、党中央軍事委員会拡大会議開催」 (2013年2月3日 「朝鮮中央通信」)

    「朝鮮中央通信」が「党中央軍事委員会拡大会議」が開催されたと報道した。報道によると、会議は金正恩さんの指導の下開催され、党中央軍事委員会委員、朝鮮人民軍最高司令部作戦指揮関係者、海軍、空軍、反航空軍、戦略ロケット軍など、大連合部隊の指揮官が参加した。

    会議では、「国力強化において一大転換を引き起こすことについての問題と組織問題が討議」され、金正恩さんが「人民軍隊を無敵必勝の白頭山革命強軍へとさらに強化し、国の安全と自主権を守ることについて、綱領的指針となる重要な結論を出された」としている。

    この「重要な結論」は、昨今の状況からすれば第3回核実験ということになる。「国力強化において一大転換」といっていることからして、「核保有国」として十分な核戦力を保有しているにもかかわらず、第3回核実験を行うことでさらに「国力強化」をするということではないだろうか。ある意味それは事実であり、今回の核実験がプルトニウム型核爆弾ではなく、ウラニウム型核爆弾であれば、「核保有国」が持つ2種類の核爆弾を北朝鮮も保有したという証になるばかりか、米国学者に公開したようにウラニウム濃縮施設が稼働しているのであれば、北朝鮮はウラニウム型核爆弾をいくらでも製造できるということになる。そうであるとすれば、まさに「国力強化において一大転換」ということができる。

    さらに、2日、北朝鮮は「祖国平和統一委員会書記局報道1019号」を発表しており、この中で「どのような形態であれ『制裁』で我々の尊厳と自主権を少しでも侵害すれば、恐ろしい報復の火柱を免れることはできないであろう」と韓国を威嚇している。報道では、形式的に韓国政府の関係者が北朝鮮に対して「厳しい制裁」を加えろといったことに対して反発する形を取っているが、事実上、これは現段階の問題ではなく、第3回核実験実施後の「制裁」について述べているのではないだろうか。

    こうした状況からすれば、第3回核実験が近日中に行われる可能性が高まっているといわざるを得ないが、依然として、その帰結を北朝鮮がどう読んでいるのかということはよく分からない。軍事オプションを除く米国による制裁はほぼ出て尽くしているが、第3回核実験の結果、中国がどう反応するかというのは北朝鮮にとってはとても重要な問題となるはずである。最近の中国の報道を見ていると、6者会談の構成国に「冷静な対応」を求めるものがいくつか見られるが、北朝鮮による第3回核実験まで読み込んでのものなのか、北朝鮮に対する実験中止を求めているものか、これもまた今一つ分からない。

    時間がないのでここまでにする。

    <追記>
    コメントにも書いたが、米国務省国際安全保障・不拡散問題担当の補佐官が3日から6日まで北京を訪れることになっている。北京では北朝鮮の核問題について話し合われるものと思われるが、北朝鮮の核実験があるとすれば、少なくともその結果を受けてであろう。この話し合いでは、中国を通じて北朝鮮の意向も伝えられることになるのではないだろうか。

    U.S. Deaprtment of State, "Assistant Secretary for International Security and Nonproliferation Thomas Countryman Travels to China and Israel"
    http://www.state.gov/r/pa/prs/ps/2013/02/203682.htm

    「ヨーロッパを揺るがす緊縮財政反対デモ」 (2013年2月1日 「朝鮮中央TV」)

    ヨーロッパの財政危機についてはしばしば「20時報道」の国際ニュースの中で伝えられてきたが、「朝鮮中央TV」がこの「特集」番組を放送した。

    番組ではデモが発生した背景を「これらの国では深刻な金融経済危機を解消するという名目で、勤労者の生活状態をさらに悪化させるような反人民的な緊縮政策を実施していることに対する憤怒の爆発です」とし、金融危機は米国で始まった世界的な金融危機はヨーロッパ全地域に拡散しヨーロッパ諸国の経済を苦境に陥れ、「EU諸国は財政赤字問題を解決するために緊縮政策を実施している」という情勢下で、「資本主義国の緊縮政策というのは、本質的に勤労大衆の賃金を引き下げ、税金を増やし、年金を減らすなど、多様な財政的恐喝を利用しながら広範な勤労大衆を搾取・収奪する政策です」と解説している。「広範な勤労大衆を搾取・収奪する政策」かどうかは別とし、この解説は大筋において正しいと思う。

    このおじさん、「20時報道」にも登場したのだが、失業者なのか乞食なのかは分からないが、体格が良い。朝鮮人民は、「危機」の中でも太っていられる資本主義のシステムをどう考えるのであろうか。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-02-01-19.flv

    続いて、ギリシア、スペインなどのデモの映像を多く紹介している。下の写真は、「ギリシアにて」というキャプションが付いているが、資本主義批判であるにしても、こういう映像を見せすぎると「我々も立ち上がろう」という朝鮮人民が出てくる可能性を「当局」は感じていないのであろうか。特に、「腹を減らしている」人民は、これをみて資本主義が間違っていても、食えるだけましだと考えはしないのだろうか。
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-02-01-19.flv

    韓国では、朴槿恵さんが選挙公約を守るのであれば、格差社会是正のために福祉の充実を図るはずである。この番組では「南朝鮮」に触れていないが、社会福祉に向けた財政支出を増大させようとしている「南朝鮮」を北朝鮮はどうみているのであろうか。

    「<TV連続劇>ある女党員の追憶 第5部」 (2013年1月29日 「朝鮮中央TV」)

    さて、「ある女党員の追憶」も最終回の第5部である。

    第5部は「経済生活がきれいではない」作業班員の話の続きである。この作業班員は、牛の角の売値で騙した相手と飲み屋でケンカをして、怪我をして作業班に連れてこられる。作業班では、班員から批判される。特に、元小資本家には「僕も植民地時代に間違った行いをしたが、なぜあなたは植民地時代のクセをまだ直すことができないのか」と諭される。作業班長からは「明日、自己批判書を書いて細胞秘書に提出しろ」と言われる。

    騙した相手に殴られて作業班に来る作業班員
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-29-16.flv

    発言をする元小資本家
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    Source: KCTV, http://www.uriminzokkiri.com/contents/movie/centertv/streams/_definst_/2013-01-29-16.flv

    「自己批判書」という言葉は我々の社会では余り馴染みがないが、ほぼ「始末書」と言い換えることができるような気がする。日本では、上司から始末書を出すように求められのに対して、北朝鮮では作業班員が集まって対象者を批判、それを受けて作業班長が「自己批判書」を党細胞秘書宛に出すことを求めるようである。一般的イメージとしては、北朝鮮の「自己批判」というのは忠誠心が足りないというような理不尽なことがその理由とされているかのように受け取られているが、少なくともこのドラマの中では「始末書」に値するような問題を起こした当事者に「自己批判」を求めているようである。

    その後、党細胞秘書と作業班長は問題のある作業班員に対する処遇について話し合う。作業班長は、彼が悪いのだからと主張するが、党細胞秘書は「彼も我々の作業班員なのだし、なんとか正しい道に導き入れなければ」と言う。これも金正恩「演説」で述べられている「99%の悪い点があり、たった1%の良い点、良心があれば、我々はその良心を大切にしなければならず、大胆に信じて包摂することで、再生の道に導いていかなければな」らないに符合する部分である。

    話し合う作業班長と党細胞秘書
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    このような党細胞秘書の気持ちも知らず、問題のある作業員は道党委員会に細胞秘書を非行を訴える訴状を書く。訴状の内容は、党細胞秘書は「初歩的な資格も能力もない女性」、「旋盤の修理もしないで、自分のことばかりに気を取られている家族主義的行動をしている」、「元小資本家を救って、自分に感謝させている」、「孤児に自分を姉貴と呼ばせるだけはなく、行きたくもない大学に無理矢理行かせた」、「自分の兄との恋愛関係で問題を起こした女性を自分の工場に連れ戻した」、「鉄道工場の恋人を自分の工場に引っ張ってきたので、鉄道工場で作り始めた旋盤を無駄にした」、「旋盤も作らずに、その恋人と夜道でいちゃつき、労働者を困惑させている」などという、虚偽の内容である。

    訴状を書く作業班員
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    訴状をこっそりとポストに入れる作業班員
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    訴状は道党委員会に届き、その報告が地元の党委員長の所に来る。党委員長は、悩みながらもその事実を党細胞秘書に伝える。党細胞秘書は、自分が問題のある作業班員のことを考えているにもかかわらず、そのような仕打ちをされたことを悩む。

    党細胞秘書に話をする党委員長
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    さらに、党細胞秘書を愛している技術指導員の所に行き「今、(党細胞秘書)は部屋に一人でいるみたいだから、むらむらした気持ちを晴らしてこい」という。これを聞いた技術指導員は「党細胞秘書は、お前が考えるような女性ではない」と激怒して、この作業班員を投げ飛ばす。ここでは、悪者が悪いことをそそのかすという設定であるが、悪者の素行であれこういうことが少なからず北朝鮮でも発生しているということの裏返しであろう。
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    その場に、他の作業班員が駆け込んできて、この作業班員が党細胞秘書を道党委員会に訴えたことが判明する。作業班の党員は集まり、この問題についてどうすべきか話し合う。大方は、この作業班員の行動に憤怒し、作業班のみならず工場から追放しようと考える。しかし、党細胞秘書は「彼が、我が党を批判したのであれば私は絶対に容赦しないけれど、彼は一個人を批判しただけであり、党を批判したわけではありません。私たちは党員じゃないですか。一人は全体のために、全体は一人のためにという党のスローガンの本当の意味は何だと思いますか。私たちはスローガンを壁に貼っただけで、そのように生きることはできませんでした。彼に小市民的な古いブルジョア思想があっても、後ろでそれをせせら笑っているだけで、誰がそれを正してあげようとしましたか。」この党細胞秘書の演説もまた、金正恩「演説」の内容をうまく反映している。ミッキーマウスも「一人はみんなのために、みんなは一人のために(One for all, all for one)」と言うが、まさかミッキーマウスの言葉を引用していることはないであろう。
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    問題のある作業班員は、元小資本家からいかに党細胞秘書が彼のために心を痛めているのかということを伝え聞き、町から出て行こうとする(牛車に荷物を積んで出て行く。社会主義北朝鮮の牛の所有権はとても気になるのだが)。作業班員たちが町を出ようとする彼を見つけて引き留める。彼はその場で党細胞秘書に謝罪をする。
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    問題のある作業班員の案件を解決した党細胞秘書は、少し気が楽になったのか、夜遅くまで仕事をする技術指導員の様子を見に来る。技術指導員は疲れて居眠りをしている。
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    彼の机の上を見ると「愛は受けるものではなく、与えるものだ。白い雪のように心からきれいで・・・」と書かれた紙が置かれている。
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    しばらく後、技術指導員は目を覚まし、党細胞秘書が「あまり無理しないで下さいね」と書き残した紙を見る。窓から外を見ると、去って行く党細胞秘書が見える。なかなか感動的な場面である。
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    翌日、作業班員は旋盤作りに励んでいる。技術指導員は、ギアを持ってやってくるが、白いワイシャツが油で汚れている。党細胞秘書は「シャツを脱いでください」というが、技術指導員は「大丈夫だ(일이 없어)」という。なかなか意味深い「일이 없어(イリオプソ)」だ。
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    問題の「あった」作業班員にも言われて、技術指導員はシャツを脱いだようだ。党細胞秘書は、技術指導員のシャツを洗濯してやる。なかなか心憎い演出である。
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    さらに心憎い演出は、今まで、自分を省みずに作業班のために努力してきた党細胞秘書が当面する問題を解決し、やっと自分に返る。女性らしさというか、鏡を見ながら自分の髪の毛を整えている。金正恩「演説」では言っていないが、決して他人のために自己を捨てろといっているわけではないということなのであろう。優先順位はあるにせよだ。
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    結局、旋盤製作には成功し、作業班長がスイッチを入れると動き出す。
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    作業班員が完成祝いをして踊っていると、おきまりの「偉大な首領様が、自分の力で旋盤製作をしたという話をお聞きになり、我々の工場を現地指導に来られる」というパターンで、党細胞秘書と作業班長が党委員長に呼び出される。ドラマには首領様は直接登場しないがいろいろと「有り難いお言葉」を述べる。細胞秘書には「結婚するとき、私は忙しくて来られないが、祝電は送るから」と言ったそうだ。

    党委員長の車で急遽工場に向かう作業班長と党細胞秘書
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    これを契機に、工作機械生産運動が始まったという結末である。この運動中で「技術神秘主義」や「保守主義消極性」が克服されたとのことである。

    最後はこういう落ちでがっかりさせる北朝鮮ドラマであるが、それがなければなかなかおもしろいし、よくできている。北朝鮮のテレビドラマをそれほど見ているわけではないが、朝鮮王朝時代以前の歴史物を除いて、軍人が登場しないドラマはあまりない。しかしこの「ある女党員の追憶」には軍人は一人も登場しなかった。もちろん、時代背景は先軍思想が登場する前ではあるが、それでも軍人の一人や二人、出てきてもよさそうなものである。やはり、今回の党細胞秘書大会を労働党の末端組織の会議と位置づけ、人民軍とは一線を画させるという施策、また、経済建設は党が主導権を持つということの表れかもしれない。細胞秘書大会の会場には軍服を着た多くの軍人が前の方に座ってはいたが、主役はネクタイを締めた非軍人の党細胞秘書であったに違いない。

    恋愛もうまく織り込まれた「ある女党員の追憶」は見るに値するドラマだと思った。
    プロフィール

    川口智彦

    Author:川口智彦
    「크는 아바이(成長するオッサン)」

    ブログの基本用語:
    「元帥様」=金正恩朝鮮労働党委員長(上の絵の人物)、2016年12月20日から「最高領導者同志」とも呼ばれる
    2021年1月11日から「総秘書同志」
    「首領様」=金日成主席
    「将軍様」=金正日総書記
    「政治局員候補」=金ヨジョン(「元帥様」の妹)、2018年2月11日から「第1副部長同志」とも
    「白頭の血統」=金一族
    「大元帥様達」=「首領様」と「将軍様」
    「女史」=李雪主夫人(2018.07.26より「同志」に)

    우 그림은 충정 담아 아이가 그린 경애하는 김정은원수님이십니다.


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