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    金正男事件:可能性は低いが北朝鮮非犯人説も考えておいた方がよい、<追記>奇しくも北朝鮮大使が同じ発言 (2017年2月20日)

    <追記>
    想定内ではあるとはいえ、北朝鮮大使がまさか拙ブログに書いたことと同じ発言をしたとは。

    「カン大使は韓国で起きている政治の混乱や米国の最新鋭地上配備型迎撃システム『高高度防衛ミサイル(THAAD、サード)』の在韓米軍配備をめぐる議論などを取り上げ、『今回の事件で唯一、得をするのは韓国』と述べた。」

    『聯合ニュース』、「マレーシアの正男氏事件捜査 「信用できない」=北朝鮮大使」、http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170220-00000072-yonh-kr
    **********************************

    別記事で紹介した「殺害瞬間動画」であるが、ネットに漂っていた。

    韓国メディアを直接見てもよいのだが、このところNew Straits Timesをしばしば引用しているのでこちらを使うと、韓国首相が「事件の背後には北朝鮮がいる」と語ったという。

    New Straits Times, S. Korean PM makes first comment on Kim killing, Read More : http://www.nst.com.my/news/2017/02/213916/s-korean-pm-makes-first-comment-kim-killing

    また、同じくマレイシアの新聞、The Starが、マレイシアを事件当日出国した北朝鮮国籍者は、ジャカルタ、ドバイ、ウラジオストックを経由して平壌に戻ったとしている。ウラジオストック-平壌のフライトは、JS272便の2月17日12時20分発があるが、実際に運航されたのか、到着したのかなどのデータが出てこない(Flight Stats調べ)。その後、今日(20日)同じ時刻の平壌行きが予定されている。ウラジオストックからは、鉄道でも北朝鮮入りできるが、鉄道のスケジュールは調べていない。

    このルートの情報源は「ジャカルタの消息筋」とされており、マレイシア警察の公式発表ではない。マレイシア警察はインターポールにも協力要請を出しているということなので、当日、クアラルンプールを発った国際便の到着空港の入管データからパスポートナンバー、あるいは搭乗券で割り出すことは可能である。ジャカルタ以降も同じ方法で割り出せる。しかし、鍵となるのは、ウラジオストックからである。彼らがウラジオストックまで行ったとしても、平壌行きの航空機に搭乗しているか、陸路(鉄道)で朝露国境を越えていなければ、北朝鮮に入った証拠はない。この辺り、ロシアの入管当局が朝露国境でのデータを出してきているのだろうか。

    The Star, Murder masterminds back in Pyongyang, http://www.thestar.com.my/news/nation/2017/02/20/murder-masterminds-back-in-pyongyang-source-suspects-left-the-country-soon-after-attack/

    仮に、彼らが航空機か朝露国境を越えて北朝鮮に入国していることが判明すれば、彼らが所持していた旅券は北朝鮮の真正旅券ということになり、北朝鮮国籍者であることが確定する(偽造旅券所持で北朝鮮で逮捕されていなければ)。しかし、北朝鮮に入国していなければ、彼らが所持していた旅券が真正旅券であるという証拠はない。マレイシアと北朝鮮の間にはビザ免除協定があり、北朝鮮国籍者が平壌のマレイシア大使館でビザを申請する必要がない。だとすると、偽造北朝鮮旅券を持った第三国(例えば、韓国)の人間が北朝鮮国籍者になりすましてマレイシアに入国、事件当日にそろって出国している可能性もある。今回の事件を北朝鮮の仕業と見せかけるには、有効な作戦である。場合によっては、ウラジオストック便に乗った足跡を残して平壌行きを臭わせ、ウラジオストックからトランジットの形で別の旅券を使って第三国に行けば、ウラジオストック空港での旅券チェックは回避できるはずである。ウラジオストック-仁川間には、日に何便ものフライトがある。トランジットなので関係ないが、韓国旅券保持者は、ノービザでロシアに入国できる。

    今回の事件では、ベトナム国籍の女が主犯として逮捕されている。この女は「イタズラ」であったにしても、金正男の顔に薬品が付着した手袋を押しつけたことは自供しているようなので、金正男の死と直接関連していることは間違いない。しかし、この女の国籍がベトナムというところが非常に気がかりである。例えば、韓国は、ベトナム人を外国人労働者として大量に受け入れており、またベトナム人女性と韓国人男性との結婚事例も大変多い、ベトナムとは人的交流が深い国である。その意味では、ベトナム人女性のリクルートは、北朝鮮よりも上手だと思う。

    「元帥様」が兄貴の殺害を企てていたとし、なぜこのタイミングで実行したのかが分からない。マレイシアでの金正男は実に無防備な状態で歩いている。それが偶然今回だけだったのか、いつもそうだったのかは不明ながら、雰囲気からすると、マレイシアではいつもあのような感じで歩いていたのであろう。だとすれば、北朝鮮が今回のような計画を実行しようとすれば、いつでもできたはずである。金正男がよほど「元帥様」の気に障ることでもしたのであろうか。このところ、メディアに登場することもなく、実に静かな金正男であった。「元帥様」に「いつかは殺したい」という思いがあったにせよ、「光明星節」から外して実行することもできたはずである。

    今日(20日)午前にも、駐マレイシア北朝鮮大使がマレイシア外務省を訪れたとNew Straits Timesが報じているが、北朝鮮メディアではこの事件に一切触れていない。それもそのはずで、仮に「金正男が南朝鮮傀儡国情院のチンピラにマレイシアで殺された」と報道するにしても、その前提として「お母さん」問題をクリアしなければならず、北朝鮮にとっては一番嫌な問題である。しかも、「異母兄が殺された」などとなれば、いくら朝鮮人民でも怪しいと思うはずである。もちろん、「朝鮮公民が」とすれば、「お母さん問題」はスルーできるが、それでも不穏当な話題ではある。逆に、北朝鮮内で「お母さん問題」を話題にさせて得をするのは、韓国当局である(その証拠に、「人民の声放送」では、しばしば「元帥様」批判のネタとして「お母さん問題」を取り上げている)。しかも、お父さんの誕生日直前であれば、効果覿面である。

    New Straits Times, N. Korea's ambassador Kang Chol visits Foreign Ministry, Read More : http://www.nst.com.my/news/2017/02/213936/n-koreas-ambassador-kang-chol-visits-foreign-ministry

    さらに、今、New Straits Timesを読んだところ、上記の駐マレイシア北朝鮮大使の詳報が出ており、彼はマレイシア外務省に「召喚された」とのことである。マレイシア外務省は、北朝鮮大使が17日の記者会見で「マレイシア政府は何かを隠している」、「マレイシアは外部勢力と共謀、利用されている」と発言したことに対し、「(マレイシア政府は)事実無根のことでマレイシア政府の評価を落とすような企てを深刻に受け止めている」と抗議している。そして、駐平壌マレイシア大使を協議のために本国に召還することにしたと報じている。

    New Straits Times, Jong-nam murder: Wisma Putra summons N. Korean ambassador to explain accusations, Read More : http://www.nst.com.my/news/2017/02/213957/jong-nam-murder-wisma-putra-summons-n-korean-ambassador-explain-accusations

    ビザ免状協定まで締結していたマレイシアとの関係悪化は、北朝鮮にとってはマイナスである。そうした覚悟までした上で、金正男を殺害する必要があったのだろうか。

    とにかく、北朝鮮にとって不利な話ばかり出てくる。

    そうした不利な話ばかり出てくる中、逮捕されている李ジョンチョルが事件への関与を否定しているという報道がある。

    『聯合ニュース』、「逮捕の北朝鮮籍男 正男氏殺害関与を否定=現地報道」、http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170220-00000002-yonh-kr

    昨日書いた記事にも、李ジョンチョルに関して少し書いたが、北朝鮮旅券を持った4人が脱出する中、1人だけマレイシア国内で逃げ隠れすることもなく逮捕されたこの人物は、実は何も知らない北朝鮮国籍者なのかもしれない。昨日書いた、筋金入りの工作員説とは真逆の話になるが、現状では両方あり得る。もし、第三国が北朝鮮を陥れるために行った策謀ならば、彼は本当に何も知らないはずである。車のナンバーから彼が特定されたということであるが、どのような状況で車のナンバーが目撃されたのかはよくわからない。彼を陥れるために、偽のナンバープレートに付け替えてカメラの前を通り過ぎることなど、第三国の工作員であれば、簡単である。

    逆に李ジョンチョルが筋金入りの工作員であれば無罪を主張し釈放された後、北朝鮮当局が「南朝鮮傀儡国情院」の仕業であることを、「お母さん問題」以外の上記の事項を並べ立てながら主張できる。北朝鮮大使の発言がマレイシア当局の怒りを買ったのは想定外だったのかも知れないが、それすら、誤認逮捕問題で相殺できる可能性もある。

    北朝鮮が犯人だということを前提にしてしまえば単純であるが、色々なことが分かってくるほど、どんどん謎が深まるばかりの事件である。マレイシア警察は、「我々の仕事は国際政治とは関係ない。マレイシアの法律が及ぶ地域で起こった事件を解決することだ」と述べている。米中と距離を置き、南北朝鮮と等距離にあるマレイシア政府だからこそとれる毅然とした態度ではないだろうか。

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    日本の報道は頭から決めてかかっているが最初に報じたのは 韓国メデア その後も続々と韓国の方が速そうだ
    プロフィール

    川口智彦

    Author:川口智彦
    「크는 아바이(成長するオッサン)」

    ブログの基本用語:
    「元帥様」=金正恩朝鮮労働党委員長(上の絵の人物)、2016年12月20日から「最高領導者同志」とも呼ばれる
    2021年1月11日から「総秘書同志」
    「首領様」=金日成主席
    「将軍様」=金正日総書記
    「政治局員候補」=金ヨジョン(「元帥様」の妹)、2018年2月11日から「第1副部長同志」とも
    「白頭の血統」=金一族
    「大元帥様達」=「首領様」と「将軍様」
    「女史」=李雪主夫人(2018.07.26より「同志」に)

    우 그림은 충정 담아 아이가 그린 경애하는 김정은원수님이십니다.


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