米新政権を睨んだ朝米間の動きか、クアラルンプール米朝接触、中国外交部の反応、中朝国境会議、新しい税関建物、「核放棄は失敗」、「スマート・パワー」、「追従勢力」筆頭安倍政権は (2016年10月26日)
24日ぐらいから、朝米間で興味深い動きが見られている。
クアラルンプールで、朝米間のトラック2接触があった。トラック2とはいえ、北朝鮮側からはハン・ソンヨル外務省局長とチャン・イルウン国連次席大使が出席し、米国側からはガルーチ元大使(朝鮮半島核問題担当)、レオン・シーガル(北朝鮮専門家)、ジョセフ・デトラニ(元北朝鮮特別担当)が参加している。北朝鮮からは現職官僚、米国側からは次期大統領になるかもしれないクリントン候補の夫時代の北朝鮮担当者が接触しているということからして、クアラルンプール会合が単純な民間人による「トラック2」レベルではないことを伺わせている。今回の米大統領選挙では、秘書と破廉恥な行為をした元大統領が夫人の人気に影響を与えないよう、あまり前面に出てきていないが(自らも破廉恥なトランプ候補は、もちろんその破廉恥行為を攻撃しているが)、当選後を見据えた外交政策などについては、夫人としっかりと話し合っているものと思われる。
UPI, U.S., North Korea diplomats meet in Malaysia for informal talks, http://www.upi.com/Top_News/World-News/2016/10/24/US-North-Korea-diplomats-meet-in-Malaysia-for-informal-talks/9001477316072/
米国務省報道官は、24日の定例記者会見で、クアラルンプールでの会合は民間人による「トラック2」会合であり、米国政府が関与するものではないと、その重要性を認めていないが、それは北朝鮮問題は何も解決できずに政権を終結しようとしているオバマ政権にとっての話しであり、北朝鮮は既にオバマ政権を切り捨て、米新政権を見据えて動き出しているようだ。
US Department of State, Daily Press Conference, http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2016/10/263482.htm#NORTHKOREA
中国外交部スポークスマンも、韓国報道を引用する形で間接的ながらも米朝の「トラック2」接触について言及し、「米朝がいかなる形であれ、朝鮮半島問題を解決するために接触することを我々は奨励する」と述べている。北朝鮮のハン・ソンヨル外務省局長は北京経由でクアラルンプールに向かっており、米側との接触前に北京で中国側と何らかの打ち合わせを行った可能性は充分にある。その結果について、中国外交部が肯定的なコメントを出しているということは、中国にとっても望ましい話し合いが米朝間で行われたことを示しているといえよう。
Ministry of Foreign Affairs of the PRC, Regular Press Conference, http://www.fmprc.gov.cn/mfa_eng/xwfw_665399/s2510_665401/2511_665403/t1408253.shtml
それだけではない。中国外交部スポークスマンも10月25日の定例記者会見で述べているが、「朝鮮中央通信」も「朝中国境共同委員会第3回会議開催」という記事を配信している。記事によると北朝鮮側からは、朴ヨングッ外務省副相が中国側からはリュ・ジンミン外交部副部長が参加したとしている。会議では「第2回会議以後、国境関係事業で提起された問題と今後、新たな国境橋を建設し、新たな国境通過地点を設定する問題などが討議された」としている。形式的には「国境共同委員会」ではあるが、タイミングからすると、それ以上の内容が話し合われた可能性もある。
延吉レポートには書かなかったが、圏河口岸では、中国側が建設した新たな橋の開通式が10月1日に行われ、北朝鮮側の税関の建物も大変立派になっていた。バスが停止することなく通過してしまったので、写真を撮ることはできなかったが、北朝鮮側の税関の建物には、巨大な共和国旗が描かれていた。この橋と北朝鮮側新税関建物の完成で、羅先-吉林省間のモノや人の流れは、インフラ的には飛躍的に拡大する可能性がもたらされたといえる。
朝米関係に話を戻すと、米国家情報長官のジェームス・クリッパーが、米シンクタンクの会議で興味深い発言をしている。クリッパーは、「北朝鮮に核を放棄させることができる見込みはほとんどない(probably a lost cause)」とし、その理由は「核が北朝鮮が生き残るための切り札(ticket)」であるからだとしている。その上で、今、米国がやるべきことは、北朝鮮に核を放棄させることではなく、核開発に「キャップをかぶせる」こと、つまりこれ以上核開発を進めさせないことであるとしている。実に現実的な見解だと思う。この発言について質問された米国務省報道官は「米国が北朝鮮に核を放棄させる政策に揺るぎはない」と強調していたが、それもオバマ末期政権の話し(報道官も暗示しているが)であり、新政権では政策変更される可能性がある。興味深いことは、その国務省報道官ですら、「六者会談」という言葉を盛んに言い出していることである。少し前までは、「六者会談」という言葉さえあまり口にしなかった彼であるが、やはり状況の変化を感じているのかもしれない。
クリッパーはまた、「米国は北朝鮮に対する兵器として、北朝鮮を資本主義化させるための情報を使わなかった」と米国情報長官らしいことも言っている。「思想強国」を自称する北朝鮮に対し、「情報兵器」がどれほど有効であるかは米国の腕次第であろうが、北朝鮮におけるネットの普及なども考慮すれば、北朝鮮に対するサイバー攻撃というか、サイバー思想浸透も可能な状況になってきているのではないかと思う。「斬首作戦」などという、戦争を引き起こすような野蛮で愚かな手段ではなく、「元帥様」を困らせるのであれば、「スマート・パワー」を活用して欲しいものである。
REUTERS, Getting North Korea to give up nuclear bomb probably 'lost cause': U.S. spy chief, http://www.reuters.com/article/us-northkorea-nuclear-clapper-idUSKCN12P2L7
さて、北朝鮮問題に関する「米追従勢力」筆頭の安倍政権は、拉致問題も含めてそろそろ新米政権への対応もきちんと考えておいた方がよいと思う。「断じて許せない!」と眉間にしわを寄せて叫んでいるだけでは、何も解決できないのだから。
クアラルンプールで、朝米間のトラック2接触があった。トラック2とはいえ、北朝鮮側からはハン・ソンヨル外務省局長とチャン・イルウン国連次席大使が出席し、米国側からはガルーチ元大使(朝鮮半島核問題担当)、レオン・シーガル(北朝鮮専門家)、ジョセフ・デトラニ(元北朝鮮特別担当)が参加している。北朝鮮からは現職官僚、米国側からは次期大統領になるかもしれないクリントン候補の夫時代の北朝鮮担当者が接触しているということからして、クアラルンプール会合が単純な民間人による「トラック2」レベルではないことを伺わせている。今回の米大統領選挙では、秘書と破廉恥な行為をした元大統領が夫人の人気に影響を与えないよう、あまり前面に出てきていないが(自らも破廉恥なトランプ候補は、もちろんその破廉恥行為を攻撃しているが)、当選後を見据えた外交政策などについては、夫人としっかりと話し合っているものと思われる。
UPI, U.S., North Korea diplomats meet in Malaysia for informal talks, http://www.upi.com/Top_News/World-News/2016/10/24/US-North-Korea-diplomats-meet-in-Malaysia-for-informal-talks/9001477316072/
米国務省報道官は、24日の定例記者会見で、クアラルンプールでの会合は民間人による「トラック2」会合であり、米国政府が関与するものではないと、その重要性を認めていないが、それは北朝鮮問題は何も解決できずに政権を終結しようとしているオバマ政権にとっての話しであり、北朝鮮は既にオバマ政権を切り捨て、米新政権を見据えて動き出しているようだ。
US Department of State, Daily Press Conference, http://www.state.gov/r/pa/prs/dpb/2016/10/263482.htm#NORTHKOREA
中国外交部スポークスマンも、韓国報道を引用する形で間接的ながらも米朝の「トラック2」接触について言及し、「米朝がいかなる形であれ、朝鮮半島問題を解決するために接触することを我々は奨励する」と述べている。北朝鮮のハン・ソンヨル外務省局長は北京経由でクアラルンプールに向かっており、米側との接触前に北京で中国側と何らかの打ち合わせを行った可能性は充分にある。その結果について、中国外交部が肯定的なコメントを出しているということは、中国にとっても望ましい話し合いが米朝間で行われたことを示しているといえよう。
Ministry of Foreign Affairs of the PRC, Regular Press Conference, http://www.fmprc.gov.cn/mfa_eng/xwfw_665399/s2510_665401/2511_665403/t1408253.shtml
それだけではない。中国外交部スポークスマンも10月25日の定例記者会見で述べているが、「朝鮮中央通信」も「朝中国境共同委員会第3回会議開催」という記事を配信している。記事によると北朝鮮側からは、朴ヨングッ外務省副相が中国側からはリュ・ジンミン外交部副部長が参加したとしている。会議では「第2回会議以後、国境関係事業で提起された問題と今後、新たな国境橋を建設し、新たな国境通過地点を設定する問題などが討議された」としている。形式的には「国境共同委員会」ではあるが、タイミングからすると、それ以上の内容が話し合われた可能性もある。
延吉レポートには書かなかったが、圏河口岸では、中国側が建設した新たな橋の開通式が10月1日に行われ、北朝鮮側の税関の建物も大変立派になっていた。バスが停止することなく通過してしまったので、写真を撮ることはできなかったが、北朝鮮側の税関の建物には、巨大な共和国旗が描かれていた。この橋と北朝鮮側新税関建物の完成で、羅先-吉林省間のモノや人の流れは、インフラ的には飛躍的に拡大する可能性がもたらされたといえる。
朝米関係に話を戻すと、米国家情報長官のジェームス・クリッパーが、米シンクタンクの会議で興味深い発言をしている。クリッパーは、「北朝鮮に核を放棄させることができる見込みはほとんどない(probably a lost cause)」とし、その理由は「核が北朝鮮が生き残るための切り札(ticket)」であるからだとしている。その上で、今、米国がやるべきことは、北朝鮮に核を放棄させることではなく、核開発に「キャップをかぶせる」こと、つまりこれ以上核開発を進めさせないことであるとしている。実に現実的な見解だと思う。この発言について質問された米国務省報道官は「米国が北朝鮮に核を放棄させる政策に揺るぎはない」と強調していたが、それもオバマ末期政権の話し(報道官も暗示しているが)であり、新政権では政策変更される可能性がある。興味深いことは、その国務省報道官ですら、「六者会談」という言葉を盛んに言い出していることである。少し前までは、「六者会談」という言葉さえあまり口にしなかった彼であるが、やはり状況の変化を感じているのかもしれない。
クリッパーはまた、「米国は北朝鮮に対する兵器として、北朝鮮を資本主義化させるための情報を使わなかった」と米国情報長官らしいことも言っている。「思想強国」を自称する北朝鮮に対し、「情報兵器」がどれほど有効であるかは米国の腕次第であろうが、北朝鮮におけるネットの普及なども考慮すれば、北朝鮮に対するサイバー攻撃というか、サイバー思想浸透も可能な状況になってきているのではないかと思う。「斬首作戦」などという、戦争を引き起こすような野蛮で愚かな手段ではなく、「元帥様」を困らせるのであれば、「スマート・パワー」を活用して欲しいものである。
REUTERS, Getting North Korea to give up nuclear bomb probably 'lost cause': U.S. spy chief, http://www.reuters.com/article/us-northkorea-nuclear-clapper-idUSKCN12P2L7
さて、北朝鮮問題に関する「米追従勢力」筆頭の安倍政権は、拉致問題も含めてそろそろ新米政権への対応もきちんと考えておいた方がよいと思う。「断じて許せない!」と眉間にしわを寄せて叫んでいるだけでは、何も解決できないのだから。