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    北朝鮮の「事実上のミサイル」と韓国の「ロケット」は何が違うのか? (2016年2月5日)

    以前、北朝鮮がロケットを発射したときにも書いたかもしれないが、日本政府の対応やメディアの報道には不思議な点がある。冷静に考えると、不要に日本国民の恐怖心を煽っているような感じがしてならない。理由は以下。

    1.北朝鮮が発射しようとしているのは「ロケット」にもなり「ミサイル」にもなるが、それは日本のH-2ロケットも「ロケット」にもなり「ミサイル」にもなるのと同じである。

    2.日本のH-2は人工衛星を軌道に乗せるための飛び道具だからロケット、北朝鮮の「銀河」は核弾頭を相手国に落とすための飛び道具だからミサイル(=兵器)。しかし、北朝鮮は「銀河」に核弾頭など搭載していないどころか、爆弾すら搭載していない。

    3.日本は米国と同盟関係があるばかりか、憲法9条を誇る平和国家だからミサイルなど発射するはずがない。しかし、北朝鮮は米国に「無法者国家」と烙印を押された「悪の枢軸国」。だから、何を飛ばすか分からないし、そんな国だからミサイルを特定国に向けて発射するかもしれない。正しいが、ミサイルを発射するならわざわざ国際機関などに通告しないし、とりあえず日本が射程に入るミサイルは数百機配備されてるといわれている。日本を攻撃したければそれらを使えばよいのに、わざわざ発射日まで予告して、日本を攻撃するミサイルなど発射するはずがない。

    4.しかし、北朝鮮のように技術が低い国の「ロケット」はどこに落ちても不思議ではない。正しい。では、韓国が2度も失敗したナロロケットはどうなのだろうか。韓国は日本同様、米国と同盟関係にある、軍事的には日本の間接的同盟国。しかし、だからといって韓国のロケットやロケットの部品が日本に落ちないとは限らない。1998年と2009年に北朝鮮は本州上空を横断するロケットを発射したが、2012年、そして今回予告している飛行ルートは他国の人口密集地上空を通過させないような最善の飛行コース。韓国のロケットもほぼ同じコースであるが、より沖縄本島に近いコースを飛んでいる。朝鮮半島から太平洋に向けてロケットを飛ばすには、このコースしかない。韓国がロケットを発射したとき、日本政府は何をしていたのだろうか。

    5.北朝鮮のロケット発射の問題は、ひとえに、「安保理決議違反」につきる。日本が主張すべきは、安保理決議違反であり、これは安保理決議を遵守することを北朝鮮に要求するのであれば、ブラジルでも、インドでも、ケニアでも、同じ主張になる。北朝鮮のロケットの一部が、日本に落下するという事態はありえるし、それに備えるのは当然のことだ。日本国民の生命・財産を守るのが、日本政府の役割だからだ。しかしそうであるならば、日本の周辺空域を通過するロケットについては、全て、同様の対応をして、国民に注意を喚起すべきではないだろうか。

    この記事、下書き状態にしてあったが、タイムリーなコメントを頂いたので、公開することにした。

    確認のために書いておくが、北朝鮮のロケット発射は明確な「安保理決議違反」である。それを擁護するつもりもないし、正当化するつもりもない。

    しかし、韓国のロケットは絶対に日本に落下せず、北朝鮮のロケットは日本に落下するというロジックはあり得ない。大切なことは、政府もメディアも国民をミスリードするようなことはすべきではないということだ。北朝鮮が日本にとって脅威であるということと、ロケットが墜落したり部品が落下するというのは全く異なる問題である。

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    コラム全体の主旨に反対ではありませんが、『北朝鮮のロケット発射の問題は、ひとえに、「安保理決議違反」につきる』との言説には反対し、元外交官の浅井基文さんの下記の主張に賛同します。

    『安保理決議2087は、"Recognizing the freedom of all States to explore and use outer space in accordance with international law, including restrictions imposed by relevant Security Council resolutions"(強調は浅井)として、条約第1条に言う国際法には「安保理決議によって課される制限を含む」としています。
    しかし、この主張は成り立ちません。宇宙条約第1条に言う国際法とは一般国際法のことです。安保理決議に関して言えば、安保理決議が加盟国に対して拘束力を持つのは、国連憲章第25条により、国連加盟国が安保理の決定を「受諾し且つ履行することに同意する」限りのことであって、決議そのものは国際法でもなんでもありません。増していわんや、その決議の内容が宇宙条約というもっとも基本的な条約に基づく締約国の権利を奪ったり、制限したりするような場合には、その決定自体が無効であり、朝鮮として縛られるいわれはないのです。つまり、安保理決議2087が以上のような規定を書き込むこと自体が許されないことなのです。
    この点についてなお反論しようとする向きに対しては、国連憲章に関するもっとも権威あるコンメンタールであるSimma, Khan, Nolte, Paulus eds., "The Charter of the United Nations"第1巻の第25条に関する詳細な解説(pp.787-854)を参照することを薦めます。
    私はむしろ、安保理決議2087に上記文言を無理やり挿入してでも、朝鮮の正当な国際法上の権利を奪いあげようとする乱暴なことをあえてする安保理(特に5大国)の姿勢に深刻な危機感を覚えずにはいられません。5大国が同意しさえすれば、国際法をもひん曲げることすらあえてするという典型的な事例にほかならないからです。ましてや、無効である決議に「違反」したことを理由にして制裁を課すなどはもってのほかと言わなければならないのです。このようなことがまかり通るのを許してしまうならば、国際社会は「ヤクザの世界」と同じです。
    宇宙の平和利用は、本来祝福されるべき性格のものです。それは、朝鮮についても同じです。朝鮮の行動をまっ黒に描き出すことに利益を見出すのは、アジア太平洋における軍事プレゼンスを正当化することに血まなこなアメリカと、日米軍事同盟のNATO化と日本国憲法「改正」のための口実探しに躍起な安倍政権だけです。中国としては、こういう点にも考えをめぐらすべきであると付言しておきます。』

    中国の国際法上の立場を糾す
    -朝鮮の核実験・衛星打ち上げ及び南海問題-
    http://www.ne.jp/asahi/nd4m-asi/jiwen/thoughts/2016/773.html

    議論すべき事項

    コメントありがとうございます。反論のご主旨は十分に理解します。本来であれば、記事で「安保理決議の正当性」についてまで議論すべきでしたが、そこまでは踏み込みませんでした。

    そのような記事にした言い訳をさせて下さい。記事では「日本政府の立場」について論じており、「安保理決議が(無条件)正当」であるという「日本政府」ですら、北朝鮮のロケット発射での対応と韓国のロケット発射での対応が異なりすぎるというところに焦点があります。

    ご指摘の点については、機会があれば、記事にしたいと思っております。その際には、コメントを頂戴できれば幸いです。

    > コラム全体の主旨に反対ではありませんが、『北朝鮮のロケット発射の問題は、ひとえに、「安保理決議違反」につきる』との言説には反対し、元外交官の浅井基文さんの下記の主張に賛同します。
    >
    > 『安保理決議2087は、"Recognizing the freedom of all States to explore and use outer space in accordance with international law, including restrictions imposed by relevant Security Council resolutions"(強調は浅井)として、条約第1条に言う国際法には「安保理決議によって課される制限を含む」としています。
    > しかし、この主張は成り立ちません。宇宙条約第1条に言う国際法とは一般国際法のことです。安保理決議に関して言えば、安保理決議が加盟国に対して拘束力を持つのは、国連憲章第25条により、国連加盟国が安保理の決定を「受諾し且つ履行することに同意する」限りのことであって、決議そのものは国際法でもなんでもありません。増していわんや、その決議の内容が宇宙条約というもっとも基本的な条約に基づく締約国の権利を奪ったり、制限したりするような場合には、その決定自体が無効であり、朝鮮として縛られるいわれはないのです。つまり、安保理決議2087が以上のような規定を書き込むこと自体が許されないことなのです。
    > この点についてなお反論しようとする向きに対しては、国連憲章に関するもっとも権威あるコンメンタールであるSimma, Khan, Nolte, Paulus eds., "The Charter of the United Nations"第1巻の第25条に関する詳細な解説(pp.787-854)を参照することを薦めます。
    > 私はむしろ、安保理決議2087に上記文言を無理やり挿入してでも、朝鮮の正当な国際法上の権利を奪いあげようとする乱暴なことをあえてする安保理(特に5大国)の姿勢に深刻な危機感を覚えずにはいられません。5大国が同意しさえすれば、国際法をもひん曲げることすらあえてするという典型的な事例にほかならないからです。ましてや、無効である決議に「違反」したことを理由にして制裁を課すなどはもってのほかと言わなければならないのです。このようなことがまかり通るのを許してしまうならば、国際社会は「ヤクザの世界」と同じです。
    > 宇宙の平和利用は、本来祝福されるべき性格のものです。それは、朝鮮についても同じです。朝鮮の行動をまっ黒に描き出すことに利益を見出すのは、アジア太平洋における軍事プレゼンスを正当化することに血まなこなアメリカと、日米軍事同盟のNATO化と日本国憲法「改正」のための口実探しに躍起な安倍政権だけです。中国としては、こういう点にも考えをめぐらすべきであると付言しておきます。』
    >
    > 中国の国際法上の立場を糾す
    > -朝鮮の核実験・衛星打ち上げ及び南海問題-
    > http://www.ne.jp/asahi/nd4m-asi/jiwen/thoughts/2016/773.html

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    丁寧なご返答、ありがとうございます。
    川口さんの意図も了解いたしました。
    今後の記事も楽しみにしております。

    よろしくお願いします

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    > 丁寧なご返答、ありがとうございます。
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    2021年1月11日から「総秘書同志」
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